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F.E.R.C Research Report - File No.0063

デマ・パニックの正体を追え!
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1998/12/06  報告 報告者:伊達 徹、吉川 美佐、和田 栄一


いつの間にか、どこからか湧き出して地域社会へと伝染し、ついには人々を直接行動にまで駆り立てる怪情報…「デマ」。

  この「デマ」によるパニックの代表例は、1973年11月に起きた、大阪・千里ニュータウンの「トイレットペーパー・パニック」である。この事件は、“トイレットペーパーがなくなる”という根拠のない噂が原因となって主婦がトイレットペーパーの買い溜めに走り、その光景をテレビで見た主婦らが翌日、全国で同様の買い溜めを行ない、各地でパニックになった、というもの。

立命館大学文学部心理学科の佐藤達哉助教授によると、デマは社会不安がある時に発生しやすく、特に不景気などの“経済的不安”がある場合には、いつ「デマによるパニック」に巻き込まれるか分からない、という。事実、この「トイレットペーパー・パニック」も“オイルショックによる不景気”という「社会不安」を背景にして発生したものであり、当時と同様に“不景気意識”が行き渡っている現在は「デマ」が流れやすい時期だと佐藤助教授はいう。

では一体、人々の「不安」と「デマ」の間にどんな関係があるのか?なぜ人は「怪情報」によってパニックを起こしてしまうのか?そして、ある事件で「デマの発生源をつかんだ」という興味深い事実を発見した。

その事件とは、1973年12月、愛知県小坂井町で発生した「豊川信用金庫事件」である。この事件では、“豊川信金が潰れる”という根拠のない噂により、ある日突如、預金引き出し客が殺到。何と閉店後も人々が詰め掛け、1日で8億円もの金額が引き出される大事件となった。しかし、実際には経営が悪化していたという事実はなかったため、当時の県警は「悪意によって広められたデマ」の疑いがあるとして捜査を開始。当日訪れた客や、その知人・家族などの証言をつなぎ合わせた結果、デマの発生源をつかむことができたのである。

【なぜ事件は起きたのか?】
12月8日≪1日目≫
■電車で通学中、豊川信金に就職が決まったと話す女子高生Aに対し、その友人Bが「信用金庫なんて危ないわよ」と言う。彼女は『一般の都市銀行に比べて信用金庫は不安定なのでは?』という意味で言っただけであり、この時点ではただの軽い雑談に過ぎなかった。

■その場にいた女子高生Cが自宅に帰った後、この会話の内容を叔母に話す。すると、この叔母は電話で兄嫁に
「…ねぇ、豊川信金が危ないって本当かなぁ?」と話してしまう。

“信用金庫が危ない”という話から“豊川信用金庫が危ない”という話にすりかわってしまったのだ。このような現象が起きる理由について、成城大学文芸学部・川上善郎教授によると、人が不安な状況にある時、良い情報より不安を感じさせる情報を信じようとするためだという。

12月9日≪2日目≫
■翌日、美容院で兄嫁が「豊川信用金庫って、危ないらしいよ」と店員に話す。 ここでは「…本当か?」という疑問形だった話が、今度は「…らしい」という推量形に変化してしまう。これは伝言ゲームと同様、情報が何人かによって伝えられるうちに内容が変化してしまう、という現象であり、川上教授によれば、このような口コミでの情報伝達において、仲介者による省略・変形・解釈が加えられることは「情報の変容」と呼ばれているという。

12月10日≪3日目≫
■前日、話を聞いた美容院の店員が、なじみ客のクリーニング店の主婦に「豊川信金が危ないって噂、知ってる?」と話す。この主婦は、7年前に豊橋市の金融機関が倒産した際、自分の出資額の殆どが戻ってこなかったという痛手を受けていた被害者の1人だった。そのため、噂話に驚きと強い不安を感じ、店の客や近所の人に広めてしまう。

12月11日≪4日目≫
■クリーニング店から流れた噂が一部の主婦の間で話題となり、ついには
「豊川信用金庫が危ないって話よ」という断定の形に変化。翌12月12日には町中の話題となる。

川上教授によれば、このような状態になると「交差ネットワークによる二度聞き効果」が現れるという。これは狭い地域で同じ情報を二度、別の人から聞くことで、情報に信ぴょう性があると感じてしまうことを指す。そしてこの後、パニックの引き金となる事態が起こる。

12月13日≪6日目≫
■クリーニング店にガス屋の店主が電話を借りに来た。その店主は妻に「豊川信金ですぐ120万円おろしてくれ」と伝える。単に商売上の都合で預金を下ろそうとしただけであったが、この会話を聞いたクリーニング店の主婦は『実際に大金を下ろそうとしている』=『倒産が目前だ』と考えてしまう。

川上教授によれば、このような具体的な行動を見ると「デマがリアリティを獲得」してしまい、人は行動を起こさずにはいられなくなるという。

■クリーニング店の主婦は主人にこの事を相談、早速預金180万円をおろす。また、夫婦で手分けして、「豊川信金が潰れるから、早く預金を下ろした方がいい」と知人に電話。さらにこの話は、様々な形で広められていってしまう。

12月14日≪7日目≫
■豊川信用金庫では、連絡を聞いた預金者が窓口に殺到し、次々と預金を引き出した。そしてこの光景が、噂を知らなかった町民にまで同様の行動をとらせ、ついには引出総額約8億円という大パニックとなってしまったのである・・・。

つまり、女子高生の会話がパニックにまで発展してしまったのは
@下地としての「社会不安」
A口コミによる「情報の変容」
B地域社会の「交差ネットワークによる二度聞き効果」
Cパニック行動の引き金としての「デマのリアリティ獲得」

これらの要素が重なったことが原因と考えられるのである。

人は「自分だけは大丈夫」と思っていても、このように状況がそろえば判断が狂い、通常では考えられない行動に陥ることもある。では、そのような時、我々はどうすれば良いのか?

デマによるパニックの対処法@「内在的情報チェック」
・・・真偽の定かではない情報に出会ったとき、他の人に伝える前に自分の中の情報や常識と照らし合わせ、確信が持てるかチェックする方法。
デマによるパニックの対処法A「外在的情報チェック」
・・・噂の真偽を自分だけで判断できない時、身近な知人に聞かず、様々なメディアや信頼できる機関などを使ってチェックする方法。

これらの方法を使って早期に情報をチェックすることが、デマ・パニックに巻き込まれないためには必要だといえる。


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