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F.E.R.C Research Report - File No.1440
ニューヨークで行われた驚異の犯罪撲滅プロジェクトを追え!

2003/02/16 報告 報告者:柏木 康一郎、伊達 徹、増田 由紀夫、藤川 優子
かつて日本は、世界で一番安全な国といわれてきた。ところが警察庁のまとめによれば、犯罪発生件数はここ10年で約2倍の285万件になり、一方検挙率は3分の1の20%に低下、治安が悪化する一方ともいえる。その日本でも、近年犯罪発生件数が急激に減少しているのが札幌である。中心部の巨大歓楽街、すすきの地区は犯罪の温床といわれていたが、2000年を境に急激に犯罪が減少しているという。実は、すすきの地区を管轄する札幌中央警察署ではニューヨークで用いられた犯罪抑制対策を導入したという。そのニューヨークの犯罪対策とは、一体どのようなものなのだろうか?
1970年以降、ニューヨークでは犯罪が急激に増加し、次第に「危険な街」と呼ばれるようになっていた。そして1990年、ニューヨーク市警察が発表した年間の殺人事件数は史上最多の2245件を記録。ニューヨークは、アメリカ最大の犯罪都市になってしまったのである。ところが、驚くべきことにその後、殺人事件数が減り始め、1998年には633件まで急激に減少。さらに、凶悪事件の総数も半分に減少したのである。世界中の警察活動を調査・分析してきたルドガーズ大学の刑事司法学者、ジョージ・ケリング教授によれば、ニューヨークの凶悪犯罪が減少した背景には、落書きを徹底的に消したことが関係しているという。それは一体どういうことなのか?
1980年代初期、犯罪が増え続けていたニューヨークでは、特に凶悪犯罪の取り締まりに力を入れていた。しかし、警察の捜査は追いつかず、当時の地下鉄でも凶悪犯罪が多発し、利用者数は過去最低にまで落ち込んでいた。地下鉄を管理するニューヨーク市交通局では、パトロールや警備強化による対策をとっていたが、なかなか治安が回復することはなかった。そこで1984年、交通局のデビッド・ガン局長は地下鉄の治安回復を目指して、ケリング教授のアドバイスのもと、150万ドルの費用を投じて、治安回復プロジェクトを発足させた。そして教授はなんと巨額の費用を投じてまず「落書きを消す」と発表したのである。
当時、ニューヨークの地下鉄は、駅のホームや車両のすべてがおびただしい落書きで覆われていた。落書きを消すという驚くべき提案に対して、交通局の職員たちは、まずは犯罪を取り締まるべきだと猛反発したのだった。しかし、ガン局長は、落書き消しを徹底して行う方針を決め、地下鉄の車両基地では、交通局の職員によって6000もの車両一面に書かれた落書きを消してゆくという、途方もない作業が行われたのである。そして、プロジェクト開始から5年後の1989年、ようやくすべての落書き消しが終了した。するとなんと、地下鉄内で増加する一方だった凶悪犯罪が減少し始めたのである。
そして教授は、第2弾として、「軽犯罪の取り締まりを強化する」よう指示した。凶悪犯罪ではなく、軽犯罪の取り締まりという対策に、再び周囲は反発したという。しかし、すぐに実行され、落書きを書く者、車内での喫煙、無賃乗車など今まで凶悪犯罪の陰に隠れていた軽犯罪を、強い姿勢で取り締まっていった。そして2年後、なんと、凶悪犯罪数も減少し始め、94年には約半分にまで減少。犯罪の温床と呼ばれたニューヨークの地下鉄は、落書き消しと軽犯罪の取り締まりによって治安が回復していったのである。
そして1994年、ニューヨーク市長に就任したルドルフ・ジュリアーニ氏は、地下鉄で成果を上げた犯罪抑制対策を、ニューヨーク市警察に導入したのである。ニューヨークでは、落書きを消し、軽犯罪の取り締まりを続けた結果、やはり、地下鉄と同じように犯罪発生件数が急激に減少し、犯罪都市の汚名を払拭することに成功したのである。
ではなぜ、落書き消しと軽犯罪の取り締まりによって減少させる事が出来たのか?
ケリング教授によれば、落書きが多い地域では、軽犯罪が多発し、凶悪犯罪が起こりやすくなるという。つまり小さな犯罪こそが、大きな犯罪を引き起こす、引きがねになるというのだ。このメカニズムを、「ブロークン・ウィンドウズ」理論という。これは、割れた窓を放置していると、人の目が及ばない場所であると受け取られ、小さな犯罪を誘いやすく、それがエスカレートしていずれ大きな犯罪につながるという理論である。
この理論の元となったのは、スタンフォード大学の心理学者、フィリップ・ジンバルド教授によって1969年に行なわれた、カリフォルニア州の住宅街に乗用車を放置するという実験である。まず教授は、ナンバープレートを取り外し、ボンネットを開けたままにしたが、1週間は変化がなかったので、フロントガラスを壊してみた。すると、すぐにバッテリーを持ち去られるなど、多くの部品が次々と盗まれてしまった。1週間後には、落書きが書かれ、ほとんどの窓ガラスが割られるなど、車は完全に破壊されてしまった。一体なぜ、このような変化が現れたのか?
ケリング教授によると、「自分だけではない」という意識から罪悪感が薄れ、結果的に乗用車の破壊という大きな被害を引き起こしたと考えられるという。これと同様に落書きは次のような段階を経て凶悪犯罪につながるという。
@ 落書きが放置されていると小さな行動に対しても罪悪感が薄れやすくなる。
A 軽犯罪が多発し、治安が悪くなる。
B この街は、警察の監視がない場所だと判断され、より凶悪な犯罪者が寄り付く。
C 犯罪がエスカレートし、凶悪事件が発生する。
そこで、凶悪犯罪を減少させるには、まず、落書きを徹底的に消して軽犯罪の取り締まりを強化し、小さな犯罪も許さないという姿勢をアピールする。その結果、罪を犯そうとする人は近づかなくなり、凶悪事件は発生しなくなるというのだ。さらに、ケリング教授によれば、犯罪を減少させるには警察だけでなく、行政や住民が道の掃除をする、他人に迷惑をかけていたら注意するといった協力が犯罪を防ぐ大きな力になるというのだ。
2001年にこの理論に基づいた犯罪対策を導入した札幌中央警察署では、軽犯罪を重点的に取り締まる方針に切り替えたのである。そして、すすきの地区で徹底した違法駐車の取り締まりを行った結果、犯罪発生件数が12パーセント以上減少したという。札幌中央警察署によれば、このような駐車違反の徹底的な取り締まりが、警察の監視の目が行き届いている事のメッセージになり、犯罪が減少したのではないかという。
小さな秩序の乱れが、大きな乱れを生む。凶悪犯罪を防ぐには、我々が罪悪感を失わず、犯罪は許さないという意識を持つ事が重要なのである。
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