【食の安全】 縦割り行政の弊害は続く?

2009年2月 3日 18:00 | 投稿者:垣田達哉

今年の流行語大賞は「(民主党に)1回やらせてみるか」で決まり!かもしれませんね。前回述べたように、民主党が政権を奪取すると消費者権利院が誕生することになりそうです。民主党は、官僚政治否定をスローガンに掲げているわりに、消費者行政に関しては、従来の官僚政治を死守しようとしています。

 消費者権利院は、いわば部外者です。消費者のために、自らが汗を流して仕事をするのではなく、仕事をしている人たちに文句を言うだけです。BSEや事故米、食の安全をめぐるさまざまな事件で、縦割り行政の弊害が叫ばれているのに、それを肯定するどころか、縦割り政治を堅守し、傍観者として批判をする部署を作るだけのものです。

 食の安全について、最も大切なことは「予防」です。食中毒などの健康被害を起こさないために何をするべきかが、求められるのです。他人がやっていることに、後から文句を言うだけなら誰にでもできます。私もその一人ですが、政治家や官僚は、文句を言うのではなく、自らが汗を流し実行しなければなりません。評論家集団(消費者権利院)を行政の中に作っても、後追い行政になるだけで、今と何ら変わりはありません。しかも、一握りの、現場を知らない頭でっかちな人たちに消費者行政が振り回される危険性もあります。

 民主党は「産業育成機関(農水省)と、取り締まる機関を分けるべきだ」と主張しているにもかかわらず、消費者庁を否定し現状の官庁も法律も堅持し、文句を言う機関だけを作ろうとしています。それで消費者の生活が守れるとはとても考えられません。
 法律の縦割り弊害をなくすために、国民生活審議会が、食品表示法を制定するように提言したことも無視されようとしています。自民党の消費者庁構想も民主党の消費者権利院構想も、消費者の実態をまったく理解していない人たちの絵空事に過ぎません。
 せっかく、生活第一を掲げる民主党が政権を奪取したとしても、庶民感覚や消費者感覚とかけ離れた政権になる可能性もあります。「1回やらせてみるか」というのは「2度とはさせない」ということにも通じます。少なくとも、今の、民主党の消費者行政政策には、大きな疑問符がつきます。かといって、自民党の消費者行政政策も他人事で、真剣味が全く感じられません。

実は、それを誰よりも承知しているのが官僚たちです。「現場を知らない政治家達が何をしようが、所詮長続きはしない。日本を守るのは自分たちだ。政治家に任せるわけにはいかない」という思いが強いようです。
 農水省は、省内から「全国の農政事務所を廃止するべきだ」と提言したにもかかわらず、農水大臣はそれを否定し、ごく一部の部署の廃止だけを示唆しました。農政事務所を廃止すれば、大幅な人員削減になりますが、来年度予算を見ても農政事務所の廃止による予算削減が盛り込まれているようには思えません。麻生首相も、農政事務所廃止を一時期主張されていたと思いますが、総理大臣と官僚自ら主張した改革さえも無視され、現状が維持されます。これでは、官僚も「笑いが止まらない」でしょう。

 一方、政治家に任せておけないという意味では、いい面もあります。農水省は、今年の通常国会に「米トレーサビリティ法案」を提出する予定です。これは、事故米(汚染米)転売事件で、業者が産地などの記載された伝票を保管していなかったために、すべての転売先を把握できなかったことによる教訓から生まれたものです。
 口頭での取引や取引先の情報開示を固辞した業者もあり、私たちの主食である米が、どんな業者から誰に転売されていったのかも、いったいどの段階(業者)で事故米から国産米に化けたのかも、すべてを把握することはできませんでした。
 そうした反省から、牛肉に加えて米でもトレーサビリティを実施して、クリーンな取引を促すことにしようというものです。この法律(案)は、食品表示という面からすると、今までのJAS法の欠陥を補った、非常に画期的なものとなっています。

 目的は「米の適正な流通が確保される仕組みを作ること」と「必要な時に、米や米の加工品の流通経路を迅速に解明できる仕組みを作ること」ですが、それに加えて「米製品の原料米の原産地に関する情報を消費者に提供できる仕組みを作ること」が明記されています。
 米製品を扱う事業者は「正しい情報が保管された記録(伝票など)を保管すること」が義務付けられます。その内容は次の通りです。


(1)入荷時:aその品名、b数量、c年月日、d相手側の氏名又は名称、e産地
(2)出荷時:aその品名、b数量、c年月日、d相手側の氏名又は名称、e産地
(3)入荷したものと出荷したものの対応関係を明らかにするために必要な事項
(4)その他必要な事項(荷姿など)


 牛肉のトレーサビリティでも定められていますが、伝票類は嘘の情報の記述はもちろん、保管していないだけでも法律違反になります。違反した事業者は名前の公表や罰則が科せられます。
 この法律が画期的なのは、伝票類に原料米の産地記述を義務付け、その情報によって、川下の事業者に原料米の原産地の表示を義務付けている点です。しかも、従来の小売店で販売されるものだけでなく、外食産業や総菜などにも義務付けられます。

 農水省は、原料米原産地情報伝達の目的を次のように述べています。
「米穀は唯一自給可能な穀物で、国民にとって最も関心が高く、最も安心して食べたい食品であるが、平成7年のミニマム・アクセス米輸入の開始後、米穀の関連商品については、輸入米も使用されるようになってきている。
このような状況の下、消費者が国産米を使った商品と思っていたものにまで、幅広く輸入米の事故品が使用されていたことが明らかになる一方で、米加工品や外食、弁当などを選択する際に原産地がわからないことにより、米製品全般にわたって消費者の不信が生じた。
このため、米を原材料とした商品について、その製造者や提供者に、消費者への原料米原産地の情報伝達を義務付けることにより、消費者が適切な情報を得られるようにすることを目的とする。」
 
 対象品目は(1)米穀(例:もみ、玄米、精米及び砕米)、(2)ご飯として提供されるもの、(3)社会通念上、米を主たる原材料とするもの(商品例:あられ、せんべい、だんご など)、(4)米を原材料としていることを商品の訴求ポイントにしているもの(商品例:米粉パン、米粉ロールケーキなど)です。

 そして、(2)のご飯の場合、商品例として「定食、包装米飯、おにぎり、弁当、寿司、炒飯、雑炊、ドリア、親子丼等」、提供される場所として「小売り、外食、出前、コンビニ、インストア加工等」となっています。

 ファミリーレストランのライスやイタリアレストランのドリア、中華料理店の炒飯、回転寿司のすし飯などから、弁当のご飯や惣菜のおにぎりなども、すべて原料米の原産地を表示することになります。原料原産地表示が、外食産業や中食事業者に法律で義務付けられるのは初めてです。
表示の方法は、対象品目に印刷やシールを貼付するなど直接表示する仕方や、メニューや店内掲示などでも良いことになっています。表記の仕方は、国産米は「米(産地名)」や「米(国産)」といったものです。国産だけでも良いし、都道府県名や地域名などでも構いません。輸入米は「米(原産国名)」というように、海外の国名を表示しなければなりません。ただ、食品業界からの反対があまりにも強い場合は、「米(外国産)」という表示になる可能性もあります。輸入米は、現状、米国産や中国産など5カ国だけです。是非とも国名を表示するように義務付けて欲しいものです。米国産か中国産かわからないようでは効果も半減するでしょう。いずれにしても、ご飯類にはすべて原産地が表示されることになります。

 魚秀のウナギのかば焼きや事故米のように、最近の偽装は、手口が複雑で巧妙になってきました。タケノコの水煮のように、生産者の写真まで偽装し、取引先まで偽装に加担させる事態になっています。生産者として掲載されていたホームページや商品の写真が、取引先の従業員だったというのです。写真を偽装したのが発覚して違反になった例は、今までにないでしょう。
 
 消費者の信頼が厚い、いわゆる「顔が見える」という表示の偽装です。しかも、中国産タケノコの水煮を取引先にいったん販売し、それを国産の袋に詰め変えさせて買い上げています。計画的な犯行であり悪質極まりないのですが、JAS法では、改善指示という注意だけに終わってしまいます。JAS法の大きな欠陥の一つです。これでは、正直に商売している人たちが浮かばれません。不正競争防止法を使って厳罰に処すべきです。

 JAS法には、もう一つ大きな欠陥があります。ミートホープ事件をきっかけに、JAS法では、小売店だけでなく生産者から中間業者まで、産地を証明する伝票類の保管が義務付けられましたが、それは、あくまで小売店に卸す場合だけです。今回のタケノコの水煮事件でも、小売店に販売した商品だけが対象であって、外食産業などに販売したものはJAS法違反には問えなかったのです。

 農水省が、JAS法を改正するのではなく、新たに「米トレーサビリティ法」を制定しようとしているのも、こうしたJAS法の欠陥が障害となるからです。
ミニマム・アクセス米は、毎年77万トン輸入されていますが、そのうち、主食用には10万トン近く流通されています。どこかのご飯などに使われていることは間違いないでしょうが、今は、それを確認するすべはありません。WTOの交渉次第では、さらに輸入米が増える(年間110万トン程度)可能性もあります。

 そうした現状の中、米トレーサビリティ法は、小売店で販売されるものしか対象でないJAS法の欠陥を補った法律です。消費者の選ぶ権利を一歩進める一方、当然ながら国産米振興の手助けにしようとする農水省の思惑にもピッタリ当てはまる法律ですが、それでも「主食である米をクリーンにする」ために、必ず成立させなければいけない法律だと思います。

 事故米事件の司令塔は、消費者担当大臣だったはずです。ところが、いつのまにか農水省が独自にすべてを取り仕切っています。司令塔であるはずの消費者担当大臣は、いったい何をしたのでしょうか。消費者目線での改革は、何か行われたのでしょうか。

 風評被害を受けた事業者には、合計150億円もの損害補填が支払われようとしています。それはすべて私たちの血税から支払われます。農水省の官僚は、一部の人が軽い処分を受けただけで幕引きを図っています。せめて、10分の1の15億円でも、農水省の全国の官僚で負担するといった責任の取り方をするべきではないでしょうか。

 官僚は、どんなに国民に迷惑をかけようが「次官の首を差し出し、一部の人間に軽い処分を科すだけでよい」ということが、まかり通っていいのでしょうか。公僕であることを忘れた官僚が多すぎます。
 一方、150億円の補填金を不正に取得しようとする事業者が現れる可能性もあります。BSEの補助金詐欺事件の二の舞にならないように、厳正な審査が必要です。

 このままでは、いずれ「無為無策で日本の第一次産業を守ることもできず、消費者利益よりも事業者利益ばかりを優先する農水省など必要ない!」「国民の安全を守れない厚労省は必要なのか?」という声が高くなってくるでしょう。


2008年 ACTION論客コラム 垣田達哉の安心「食」提言


垣田達哉

消費者問題研究所代表
食アドバイザー
食品問題評論家

1953年岐阜市生まれ。77年慶應議塾大学商学部卒業。97年独立し、消費者問題研究所代表。04年、学校給食用食材の安心安全を確保する協力者会議委員に任命。BSE等の食の安全や、食育、食品表示問題の第一人者として、テレビ、新聞、雑誌、講演などで多方面で活躍している。著書多数。

Comment

なか さん

公務員による犯罪及び犯罪まがいの行為が多いのは公務員の身分があまりにも守られ過ぎていると思います。しかも私達には何処の部署で発案され誰が最終的に決定したのかさっぱりわからない。この辺を見直すべきだと思います。

2009年2月24日 02:58

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