4月14日 MC

司会者のことを、MC(エムシー)と言う。
最近は一般的にも使われるようになってきたが、業界用語の類であろう。
大昔、アナウンス部の勤務シフト表が、紙に手書きだった頃、
「取材」や「録音」などと共に、「MC」というハンコもあり、
管理職のベテランアナが、一日に何回も「MC」ハンコをシフト表に押していた。
 
「ところで、M.C.って、何の略ですかね?」
知り合いのトランペッターが、ジャズ喫茶で「今日は僕がエムシーをつとめます」と言いながら、ふと呟いた。
私が小声で、
「Master  of  Ceremonies」
と言ったら、
「あ、そうか」
バンドメンバーのひとりは、
「マイク・チーフかと思ってた」
MCという2文字は確かにマイクを連想させるけれど、
マイクロフォンが登場する以前からあった言葉だと思う。
 
「セレモニーのマスター」だから、MCには権限がある。
式典では、会場中、どのような肩書の人も、司会者の言葉に従って、
立ったり座ったり、粛々と動いて、事が進んでいく。
テレビ初期の頃、ある歌番組の司会者は、
「次は、○○に歌わせます」と、歌手名を呼び捨てにして、身内のように紹介したという。
視聴者はお客様、出演者は、自分が取り仕切るショーのメンバーという考え方をとれば、彼の言葉遣いは正しい。
今、このやり方を踏襲すると、何と言われるか分からないけれど...。
 
「第一回の、あなたの第一声で、この賞の雰囲気が決まったんだよ」
毎年、私が贈賞式の司会をつとめている賞の創設スタッフが、
二十年経った時、こう言って、ねぎらってくれた。
とても嬉しかったが、何気なく発した第一声が、そんな役割も担っていたのか、とちょっぴり怖くなった。
「会を司る」MCの仕事は、思ったよりも幅広く、奥深い。