6月30日 大事にしてもらった

「君たちは、とにかく司会の井田アナウンサーに尽くすんや!それが番組のためなんや!」
と、関西出身の制作プロダクション社長は、いつもスタッフに説いていたという。
20代半ばで、早朝の情報番組の司会者になったとき、
キャリアの浅い私を、周りの大人たちが過分なほどに、もり立ててくれた。
番組プロデューサーは、社員食堂での私の食べっぷりにも目を配り、
「あれだけ、もりもり食べられれば大丈夫だな」
と、よく言っていた。


担当して1年近くたった頃、イレギュラーの特番ロケで数日間、海外出張をした。
成田空港に帰ってきて、「明日からまた早起きだ」と思いながら到着ロビーに出たら、
そこに、プロデューサーと、ベテランの女性スタッフの姿が...!
「やあ、お帰り」
言葉はそれだけだったが、
元気か?待ってたぞ。明日からまたよろしく頼むな。
と言われた気がした。
若輩の私のために、番組の重鎮が2人、成田まで迎えに来てくれたのだ。


ある時、番組スタッフの身内が亡くなり、弔問に行った帰り、
玄関にずらりと並んだ黒いパンプスの、どれが私のだか分からなくなってしまった。
きょろきょろしていたら、
「由美、これだろ」
と、プロデューサーが指さした、それは、まさしく私の靴。
「何年、君を見ていると思ってるんだ」
と笑っていたが、どうして分かったのか?
すでに故人となってしまったプロデューサーに、確かめたいが、問うすべがない。


アナウンサーは、少なくとも私は、おだてられれば木に登る。
司会者に尽くすのは、番組のため、ひいてはスタッフ自身のためとわかっていても、
これほど大事にされて、張り切らない人間がいるだろうか。
30年以上前のことなのに、思い出すと、今も感謝で胸がいっぱいになる。