4月1日 3つの教え

芝居に携わる仕事がしたくて、学生時代、演劇研究所に通っていた。
出来ることなら役者として舞台に立ちたかったが、才能と情熱ほとばしる研究生たちの中で、
私は、目立たず、冴えず、エチュード(練習劇)で何を演じても、しょぼくれていて、講師はあきれ顔。
「面白くも何ともない」「箸にも棒にもかからない」...酷評され、泣いた。
 
全く芽のでないままの研究生時代だったが、
芝居が好きという気持ちは変わらず、夢中で毎日を過ごした。
見捨てず、指導してくれた師匠、俳優の渥美國泰さんから教わったことが、3つ、今も心に残っている。
 
まず、「自分が思っている自分と、他人(ひと)から見た自分は違う。」
思い切って、大きく演じたつもりなのに、観客から見たら、少しも振幅のない芝居をしていることがある。
明るい声を出したつもりが、実際は悲壮感に満ちていることも。
「人前に出る仕事は、他人の評価がすべて。
自分の満足よりも、見てくれる人の満足を大切に、楽しんでもらうよう、心がけなさい。」
 
2つめは、「初め良くても、しばしば失速するのがアマチュア。
たとえ初めはうまくいかなくても、だんだん調子を上げて、最後はきれいに着地を決めるのがプロ。」
アナウンサーになってから、番組の出だしで、
つまずいたり、今日は不調だな、と感じたりしたとき、何度この言葉を思い出したことか。
 
3つめは、「プロならば、どんなに調子が悪いときも、このレベルから下には行かない、という線を持て!」

どのような分野でも、仕事の心構えは共通のもの。
落ちこぼれの元演劇研究生は、今、アナウンサー研修で、後輩たちに同じことを言っている。
そのつど、誰よりもまず、自分自身に言い聞かせながら...。