近所の青果店に、ややスリムな大根と、力士の腕のように太く立派な大根が並んでいる。
「どっちも同じ値段だよ」と、野菜を並べながら、おじさんが教えてくれる。
「飲食店が開けられないでしょ。業務用の太いのが、小売りにも回ってくるんだ」
お買い得だよ、と言われても、こんなに大きくては、私には使い切れない。
結局、スリムな方を買って帰る。
飲食店も大変、農家も出荷がままならず、特大の大根も何だかかわいそうである。
鮎、鱧…初夏から夏にかけての美味。
近所の小料理屋で、年に一度味わうのを楽しみにしてきた。
しかし、緊急事態宣言で店は休業中。
春先、宣言の合間に覗いたら、
「お客さんに出せないうちに旬が過ぎちゃう食材が、いくつもありますよ」
と、板前さんがため息をついていた。
ありふれた日常が失われてから二度目の夏。
医療従事者をはじめ、命を守り、暮らしに欠かせない仕事をしている人々に頭が下がる。
一方で、帰省したい、会食したい、というごく普通の願いがかなわないストレスと、
そこに携わる業界の人々の不安も、積もり積もって大きくなっている。
著名なマラソンランナーが、かつて言っていた。
「棄権しようかと思う時は、『次の電信柱まで走ってやめよう』と決める。そしてたどり着くと『もう一つ先の電信柱まで』…そうしているうちにゴールできる」
長距離走の達人に倣って、秋のサンマの炭火焼きを楽しみに、まずは晩夏を乗り切ろうか。