8月25日 日常茶飯

近所の青果店に、ややスリムな大根と、力士の腕のように太く立派な大根が並んでいる。

「どっちも同じ値段だよ」と、野菜を並べながら、おじさんが教えてくれる。

「飲食店が開けられないでしょ。業務用の太いのが、小売りにも回ってくるんだ」

お買い得だよ、と言われても、こんなに大きくては、私には使い切れない。

結局、スリムな方を買って帰る。

飲食店も大変、農家も出荷がままならず、特大の大根も何だかかわいそうである。

 

鮎、鱧…初夏から夏にかけての美味。

近所の小料理屋で、年に一度味わうのを楽しみにしてきた。

しかし、緊急事態宣言で店は休業中。

春先、宣言の合間に覗いたら、

「お客さんに出せないうちに旬が過ぎちゃう食材が、いくつもありますよ」

と、板前さんがため息をついていた。

 

ありふれた日常が失われてから二度目の夏。

医療従事者をはじめ、命を守り、暮らしに欠かせない仕事をしている人々に頭が下がる。

一方で、帰省したい、会食したい、というごく普通の願いがかなわないストレスと、

そこに携わる業界の人々の不安も、積もり積もって大きくなっている。

著名なマラソンランナーが、かつて言っていた。

「棄権しようかと思う時は、『次の電信柱まで走ってやめよう』と決める。そしてたどり着くと『もう一つ先の電信柱まで』…そうしているうちにゴールできる」

長距離走の達人に倣って、秋のサンマの炭火焼きを楽しみに、まずは晩夏を乗り切ろうか。