8月30日 名所か、路地か

インタビューは、旅に似ている。
一人の人にインタビューすることは、一つの街を巡り歩くような体験だと思う。


街も、人も、おのおの歴史があり、独自の魅力がある。
道や川の流れ、木々や建物のたたずまいが違うように、容貌や気質が違う。
いかめしい外観の建造物が、中に入ってみると細やかな装飾に満ちていて柔らかい雰囲気だったり、
手入れをしていない自然の庭、と思いきや、緻密な計画で四季の移ろいが表現されていたり...
旅は、実際に足を運んでみて、初めて分かることばかり。
同様に、気むずかしそうな人が、会ってみると人なつこく優しかった、というようなことは、
誰しも経験があるのではないだろうか。

旅に出るとき、地図や、ガイドブックや、行ったことのある人の話から情報を得るように、
インタビューの前にも、資料に目を通し、その人の仕事、作家ならば著書、
芸術家ならば作品に接して、質問すべきことを列挙しておく。
「今、この人から、これだけは聞きたい」と、皆が思う"名所"は逃せないが、
これまで知られていない、"路地"のような魅力も、引き出したい。
ぶっつけ本番の言葉のキャッチボール、しかも多くの場合、時間が短く、
慌ただしい旅にならざるを得ない、テレビのインタビュー。


どうすれば、主人公も、番組の視聴者も、そして聞き手である自分も、満足できる展開になるのか。
わずかな残り時間に、行くべきは名所か、路地か。
決断と選択を迫られ、インタビュアーはいつも、おろおろしている。