1月11日 人生2度目の公開録音

旧臘、という言葉は池波正太郎さんのエッセイで知った。

新年から見た去年の12月を指す。

さて旧臘、ラジオ日本「わたしの図書室」で、3年ぶりに公開録音を行った。

渋谷の小さなホールで、羽佐間道夫さんや若手の声優さんたちと、没後50年のノーベル賞作家・川端康成のいくつかの作品を抜粋して朗読した。

ピアノとチェロの生演奏、研究者によるエピソード紹介もあり、短時間だが豪華なプログラムである。

 

コロナはまだ尾を引いていて、本番当日の朝に出演者全員、抗原検査。陽性になると参加できない。

舞台の人たちは、この3年間、こんな苦労と気遣いをしながら演劇やコンサートを続けてきたのか、と思う。幸い全員陰性で、無事、幕が開いた。

 

リハーサルが終わって番組プロデューサーが、

「井田さん、もっと華やかに!」

日頃、ラジオの小さなスタジオで、マイクに顔を近づけて声の表現に努めている私。

「録音」の「公開」というつもりでいたのだが、そうか、観客は舞台を見に来るのだ。

本番は、ホールの空間を意識して、表現を大きくしてみたが、後日もらった舞台写真を見ると、

羽佐間さんはさすが役者さんで、朗読しながらも目がキラリとして、客席を見ている。

公開録音はまだ2度目の私は、読むときも、共演者の朗読を聴くときも、うつむいたまま。

存在感が薄い。修業が足りない…。

 

でも、つくづく楽しかった。

生の音楽にのって、観客の息遣いを感じながら、声に出して読む、川端康成のひとひら。

鼓動が急に高まったり、静謐な気分になったり、波に揺られているようなひととき。

朗読という名の海は、広い。また一つ、印象深い仕事をさせてもらって、感謝している。

 

1月19日(木)夜11時30分、ラジオ日本で放送します。よろしかったらお聞きください。