10月28日 今では当たり前のことでも

女性アナウンサーが政治経済のニュースを伝えている。
それがどうした?毎日のことじゃないか、と思う人は、若い。おそらく40歳未満であろう。

私がアナウンサーになった1980年、
ニュースの伝え手の多くは男性アナウンサーか、記者出身の男性キャスター。
女性アナが一人で伝えるニュース番組は、
日本テレビの午後のスポットニュース(5分枠)と、日曜の早朝ニュースだけだった。
平日、朝夕のニュースは男女2人で伝えていたが、
男性アナが、政治、経済、事件、事故。
女性アナは、季節の話題や、動物の赤ちゃん誕生など、「ヒマネタ」と呼ばれる項目、
と担当がくっきり分かれていた。
 
生放送だから、時には緊急のニュースが入ってくる。
ある時、男性アナが読み伝えている最中に飛び込んできた、事件の原稿を、
番組スタッフが女性アナに手渡し、そのまま女性が伝えたら、
放送後、報道フロアに電話がかかってきた。
「俺の書いた原稿を、女に読ませるのか!」
飛び込みのニュース原稿を書いた、警視庁担当の男性記者だった...。
私の5年先輩の女性アナウンサーが体験した本当の話。
わずか三十数年前のことである。

マスコミの世界だけに限らない。
さまざまな仕事場で、くやしい思いをしてきた女性の先輩たちが、
知恵と心意気で道を切り開き、
1980年代、女性が世の中で多彩に活躍し始めた。
その果実をもらって、
私以降の世代の女性アナウンサーは、ニュースのメインキャスターもつとめる。
現場からリポートする記者が男性か女性か、などということは、誰も気にしない。
 
今では当たり前のことでも、積み重ねてようやく得られたことがいくつもある。
大切にして、さらに先につなげていかなくては。

(この、ニュースと女性アナの話は、ホームページの他のコーナーで以前、書いたこともあり、
重複がはばかられるのだが、若手アナに話すと
「へー、そうだったんですか!」と驚くので、年寄りの繰り言。どうかご容赦を。)