テレビでニュースを伝えるとき、アナウンサーは、視聴者と向かい合っている。
現実には、スタジオにいて、視聴者の姿は見えないのだが、カメラの向こうに、見て、聞いてくれる人がいる、と思って、語りかけている。
ベテランになるとそれが自然にできるようになる。
かつて私の祖母は、テレビを見ながら、お気に入りのアナウンサーの挨拶に「はい、こんにちは」と、反応していた。
ナレーションを収録するときは、録音室の中で、映像を見ながら、手元の原稿を読む。
つまり、アナウンサーも視聴者と同じく、テレビ画面の方を向いて音読している。
しかし、これは実は逆向きで、ニュース番組同様、視聴者の方を向くべきなのだと思う。
その昔、路地や公園で子供たちに人気だった紙芝居のおじさんのように、画面の横か後ろに回り込んで語りかけなくては、言葉の意味するものは伝わりきらない。
ナレーションは映像を彩る額縁であり、絵の後ろの支えである。
ベテランのナレーターは、録音室で画面に向かいながらも、意識の中では画面の後ろに移動し、番組の中から、視聴者に向かって話しかけている。
若手アナウンサーのナレーションで、声もいいし、抑揚も間も上手く取れているのだが、何かが違う、何かが足りない、と感じることがある。
何が原因なのだろうか? どうアドバイスすればいいのか?と、考え続けて、「そうか、“顔の向き”が逆なのだ」と、最近ようやく気づいた。
視聴者と同じ向きで画面を見ているから、届け手であるという自覚が薄く、作品との距離もなかなか縮まらない。
番組の中に入って、そこから語りかける、ということが、できていないのである。
かくいう私は、適切な顔の向きで仕事をしているのか?あらためて検証しなくては…。