11月15日 ヒマネタ

ニュースの中に、「ヒマネタ」と呼ばれるジャンルがある。
政治、経済、災害、事件、事故のような緊急性はなく、
季節の花や、動物の赤ちゃん誕生、祭りや催しなど、
明るくホッとする話題、「暇ネタ」。


私が新人の頃は、ニュース番組での男性と女性の役割分担が杓子定規に決められていて、
政治、経済をはじめ、硬派のニュース、大きなニュースは男性アナが読み、
女性アナは「ヒマネタ」担当であった。
なぜ、女性は政治経済のトップニュースを読ませてもらえないのか?
当然の疑問を呈した人々の努力で、1980年代、
(テレビ業界だけでなく、さまざまな分野で)男女の仕事の垣根が取り払われ、
今、女性がメインキャスターをつとめるニュース番組は少しも珍しくない。


先日ある大学で昔話をする機会があり、「私の数年先輩の女性アナは、
急に入ってきた事件のニュースを伝えた時、『俺の書いた原稿を女に読ませたのか!』と
警視庁担当の記者からクレームが来たのよ」と話したら、学生さんたちは目を丸くしていた。


実は、アナウンス技術という点では、ヒマネタの方が難度が高い。
「いつ、どこで、誰が...」や、数字のデータといった「情報」を正確に伝えるだけでなく、
ヒマネタは、「情感」を豊かに表現する力が求められる。
満開の桜、伝統の祭り...高齢などの理由で外出が難しい視聴者に、
そこに出かけたような気分になってもらえたら、伝え手冥利。
ヒマネタが読みこなせてこそ、プロとして一人前なのである。


そして、ヒマネタは平和の象徴でもある。自然災害や大きな事件が起きた時は、
ニュースにヒマネタの入る余地がない。
さりげない季節感を報道に織り込める日の幸せ。忘れてはならないと思う。

さらに、ヒマネタは決して些細な出来事ではない。
花の咲き具合や紅葉の色づきは、自然や環境の変化を反映し、
地域の祭りの賑わいや担い手の状況から、社会の現在と、未来も垣間見える。


ヒマネタ、すなわち人間の日々の営みから世界を見つめ、読み解くようなニュース番組を
つくれないものかしら。
ニュースの担当を離れて10年以上経った今も、ふと、そんなことを考えるときがある。