3月16日 インタビュアー

1995年の阪神・淡路大震災から2年後、
ニュース番組の取材で、震災遺児を支えるボランティア活動をしている神戸の女子学生にインタビューした。
自らも震災で母を亡くし、父親と2人で暮らす彼女は、
悲しみと痛みを抱えて過ごした日々を静かな口調で語り、未来の夢も教えてくれた。
 
たしか、修復された自宅にお邪魔してのインタビューだったと思う。
家の中での撮影は、カメラ機材で壁や畳を傷つけないための防護や、照明のセッティングに時間がかかる。
撮影スタッフは、準備や後片付けをしながら、彼女のお父さんとずっと話していた。
 
撮影を終えて、帰り際、彼女が私に言った。
「私、びっくりしました。父が、スタッフさんたちとあんなにお喋りするなんて。
震災以来、あんなに饒舌な父を見たのは初めてです。話したいことが、たくさんあったんですね、父にも...」
 
ひとつ屋根の下に暮らし、つらさを分かり合っているからこそ、口には出せないこともあるのだろう。
一日だけの訪問者、そして自分と年代の近い男性スタッフの面々に、
お父さんは胸襟を開いて、しまい込んできた思いを語ったのかも知れない。
お父さんの心の重荷が、ほんの少しでも軽くなったとしたら...
その日の撮影スタッフは、すぐれたインタビュアーでもあった。
 
東日本大震災から5年。
今、ようやく話す気になった、今だからこそ話しておきたい、
ということを胸に抱いている人は、少なからずいるのではないだろうか。
インタビューは、日々の暮らしの中にある。
周囲をよく見て、耳をすませば、誰もが、身近なところで、インタビュアーの役割をつとめることができる。