今年の中秋の名月は、9月24日。
毎年、十五夜お月さんにススキくらいは供えようと思いながら、
ただ月を眺めるだけの宵を過ごしてしまっている。お団子も久しく食べていない。
子供の頃、月見団子は祖母や母の手作りだった。まん丸に15個作り、三方に載せて、
お月さまから見えそうな、二階の窓辺にお供えした。
翌朝、少し固くなったお団子を焼いて、砂糖醤油をつけて食べる。
香ばしくておいしかった。
小学3年生の時、東京から大阪の枚方に引っ越して、驚いた。
十五夜の日、和菓子屋さんの店頭に並んでいるお団子が、丸くないのだ。
雨だれのように、一方がとがって細長く、しかも、くるりとあんこが巻いてある。
これが関西の月見団子...?
母は当惑顔で、その年も丸い団子を作り、中秋の名月のお供えにしたが、
ためしに買って食べてみると、細長いお団子も甘くておいしかった。
ずーっと不思議に思いながら、大人になって、テレビ局に就職した。
アナウンサーも、番組の企画を出すことができる。たいていはボツとなるが、
入社6年目の1985年、「てれびムック」という番組に、「月見団子の謎」というタイトルで、
東西の形が違う理由を突き止めたい、と提案したら、採用された。
スタッフの一員として制作会議の始めから参加し、リポーターもつとめた。
日常的なこと、身近なことほど、手がかりとなる資料が少ない。
「守貞漫稿(もりさだまんこう)」など昔の文献を調べたり、
京都の旧家で月見の掛け軸を見せてもらったりしたが、全容解明、鮮やかな謎解き!には、
なかなか至らなかった。
ただ、細長いお団子は、里芋をかたどったもの、と分かった。月を愛でつつ、
秋の収穫に感謝する十五夜。里芋を供えているうち、それをかたどって
甘い団子が作られるようになったらしい。関東の丸い団子は月をかたどったものだが、
中国から伝わった仲秋節の月餅の影響もあるようだ。
さらに、四国・愛媛の伊予郡では、団子と里芋を一緒に煮込んだ鍋を、
「団子じゃと思ったら芋じゃった、芋じゃと思ったら団子じゃった」
と言いながら食べると聞き、このシーンで、番組を締めくくった。
企画提出から3ヶ月。撮影最終日、大鍋を囲んだ伊予の人々の朗らかな声を聞きながら、
20代だった私は、番組をつくる難しさと面白さをかみしめていた。