3月18日 久しぶりの靴で

足元が崩れる体験をしたことが、3度ある。

最初は、30年以上も前のこと。家族でハイキングに行き、郊外の駅を降りて散策しているうちに、妙に歩きにくくなってきた。見ると、私の足元からポロポロと、粒状のものが路上にこぼれている。数年ぶりに履いたスニーカーの底が、割れて砕けて、かかとが露出しそうになっているのだ!仕方なく、私だけ電車で靴屋さんのある町まで引き返し、新しいスニーカーを調達して、数時間後に再び合流した。家族と過ごすより、一人で歩いていた時間の方が、長かった。

 

二度目は、おととしの12月。ラジオ日本「わたしの図書室」で、川端康成の作品を、渋谷のホールで公開録音した。リハーサルの数日前、共演の羽佐間道夫さんから電話で「僕、和服を着ようと思うんだ。井田さんも良かったら着てよ」と提案があり、衣装合わせも兼ねて、リハーサルの日も和服で出かけた。

ラジオ日本の社屋に入ろうとしたとき、パカッと小さな音がして、私の草履のウレタン底が、落っこちるように剥がれた。買って10年余、めったに履かないけれど…と思いつつ、そろりそろりと足を運ぶうちにも、ポロポロと白いものがこぼれていく。何とかリハーサルを終え、ゆっくり、探るような足取りで帰宅し、その日のうちに新しい草履を購入した。

本番の日だったら、舞台上で、どうなっていたことか…。

 

三度目は先月の、みぞれ降る日。普段は玄関の棚の奥にしまい込んである、雪用のブーツを取り出し、出勤した。最寄り駅に着いたあたりで、左右の足の感覚が違うな、と思ったら、右の靴のかかと部分が、ブラブラしている。「来たかー!」と思ったが、家に戻ると遅刻してしまう。これまでの経験を生かした(?)歩き方で、汐留までたどり着き、会社近くの洋品雑貨店で、新しい長靴を買った。若い女性の店員さんが、ダメになった私のブーツをこころよく処分してくれた。

 

「一年着なかった洋服は、これからも着ない。思い切って捨てること!」

と、整理整頓上手の知人は言うけれど、履物の場合は、そうもいかない。(いや、洋服も…)

しかし、気づかないうちに、靴底や草履裏の劣化は進行している。

物持ちがいい、と自負していると、時に足元が崩れる、あの情けない思いに見舞われることが、これからもあるのだろう。久しぶりの仕事と靴は、念入りにチェックしなくては。