「紐づける」
マイナンバーカードの問題で、国会審議やニュースでしばしば耳にするようになったが、雑な感じがして、私は、どうもなじめない。
手持ちの辞書には載っていない。IT業界でよく使われる言葉らしい。
紐で二つのものを結びつけるように、データをつなぐという意味なのだろうが、
それならば「結びつける」「つなぐ」「関連づける」などと言ったほうが、分かりやすいのではないか。
「他人の情報が紐づけられていて…」本当に紐で結び合わせるとしたら、他人の情報が記されたカードを、そう簡単につなげられるものではないと思う。
クリック1回の手軽さに潜む危うさが、「紐」という、昔ながらの響きで薄められているような気もして、
IT落ちこぼれ人間としては、何やら腹立たしく、釈然としないのである。
「前倒し、後ろ倒し」
「前倒し」は辞書にも載っていて、もはや一般用語なのだろうが、予算の執行や施策の実施を早める、という意味のお役所言葉である。
いつ頃から使われるようになったのかしらん?と思い、わが家の「広辞苑・第三版」(昭和58年発行)を開いてみたが、「前倒し」の項目は見当たらなかった。
「予定より早める」とか「繰り上げる」とか、素直な表現にすればいいのに、と思う。
最近は、逆の意味の、遅らせたり繰り下げたりすることを、「後ろ倒し」という人も出てきた。さらには「前倒し」の動詞化で、「前倒す」という人も…いやはや。
そもそも、なぜ「倒す」のか?乱暴ではないか!予算の執行や施策の実施は、心を配って、丁寧にしてほしい!…と、これは私の八つ当たり。
「受け止め」
「××の件について、受け止めをお願いします」と、記者が政治家にマイクを向けている。
いわゆる“ぶら下がり”インタビューで、時間もなく、相手に逃げられないように、という思いもあって、言葉を短くしているのだろうが、
「受け止め」という名詞は変な感じがする。
受け止める、は動詞である。受け取る→受け取り、のように名詞化する言葉もあるが、受け止める→受け止め、はまだ成立していないと思う。
「〇〇大臣の受け止めはどうだった?」「はい、これこれです」という、ニュースデスクと記者とのやり取り、
すなわち業界内の言葉遣いを、公の場に持ち出すのはいかがなものか。
ニュース番組を離れて久しく、今や、テレビを見て文句を言うばかりの私だが、
日々のニュースを担当していた頃、もっと言葉に鋭敏に反応し、強く提言してきたら、少しは現状も違っていたのかもしれない…と思うと、内心忸怩たるものがある。