10月1日 自然な表情

「このニュースは、どういう表情で伝えればいいのでしょうか?」
    
と、若手アナウンサー研修などで、尋ねられることがある。
テレビのアナウンサーの場合、表情も一つの大事な要素だが、表情は、「つくる」ものではない。
「自然であること」が一番。
 
しかし、これが案外むずかしい。
写真や動画を撮るとき、「自然な感じで」と言われた途端に、笑顔がこわばったり、
動きがぎこちなくなったりした経験は、誰にもあるのではないだろうか?
 
コツは、「自分を捨てる」こと。
 
自分がどう映っているか、どう見られているか、を意識しているうちは、表情は、どこか、わざとらしい。
演技は視聴者にすぐ見抜かれるし、過度の思い入れは、情報をきちんと届けることの妨げになる。


伝え手の自分など、どうでもいい。
大切なのは、ニュースの内容を把握すること。
なぜ、そのことを取材し、伝えるのか?
当事者の気持ちや、社会に及ぼす影響に思いをめぐらしたとき、
声も、表情も、おのずから、ニュースに添ったものとなる。
 
昨今のニュースの重要性。
それでいて、つきまとう、やりきれなさ。
 
中身を理解すれば、声の抑揚や間(ま)、顔の表情は、
意識しなくても、ちゃんとついてくるよ、
と若いアナウンサーたちには言い聞かせている。
 
さらに、「暗いニュースだから、沈痛な表情になるのが自然」、と一面的にとらえず、
暗さの中にも希望を、明るいニュースの中にも、厳しさや凛とした部分を見つけるように心がけると、
ニュースが、より深く、奥行きや広がりをもって、伝わっていく。
 
伝えるプロならば、そのくらいの技量を持ちたい。