8月4日 冷やさない

盛夏、演劇の地方巡回公演で、長距離列車に乗るとすぐ、女優さんたちが一斉にバッグからスカーフを取り出し、首に巻いた、という記述をパンフレットか何かで読んだことがある。

ああ、やはりそうなのだ、と思った。

声の仕事に風邪は大敵。そして、夏風邪はたいてい、喉を冷やしたことから来る。

 

私も、一年中スカーフを持ち歩いている。

屋外はうだるように暑くても、乗り物や商店は冷房が効いていて、入った瞬間は心地よいが、やがて首回りが冷えて、心配になってくる。

タートルネックのセーターを愛用している冬よりも、夏の方がスカーフの出番は多い。

会社でも、ニュース「きょうの出来事」の本番前、下読みの時間は、先輩の石川牧子さんからいただいたスカーフを、いつも首に巻いていた。

 

20代の頃、神田川を下るという番組で、ベテランの芸者さんにお話を聞いたことがあった。人をそらさない話術はさすがに巧みで、インタビュアーの私の方がもてなされてしまった感じであったが、番組後のお喋りでその芸者さんが、

「あなたみたいな若い人は、寝るときに、ピラピラの、袖のないネグリジェかなんか着てるんでしょ」

「いえ、パジャマです」

「長袖?半袖?」

「夏は半袖です」

「ダメダメ!一年中、長袖長ズボンにしなさい。半袖のピラピラ着てた私の友達なんか、今や神経痛で大変なんだから。婆さん芸者の言うことは聞いとくものよ!」

はい、というわけで、以来、長袖長ズボン、そして夜もスカーフを巻いて、その芸者さんと同年配になった私の肘や膝は、まだ大丈夫のようである。

 

かつて、坂東玉三郎さんが、民俗芸能の若手集団を指導する様子を撮影したドキュメンタリー番組で、「若い人たちに何を教えたのか」と問われて、「身体を冷やさない」こと、と答えていらした。

この「からだ」という響きには、「こころ」も含まれているような深いものがあり、私も生徒になったような気持ちで、テレビの前で頷いた。

 

今年もミンミンゼミが高らかに鳴く日が続くが、夏の冷えには、くれぐれもご用心を。