6月18日 ショーウインドーと小箱

一番長く担当したのは、「美の世界」という美術番組である。
入社6年目の1985年から足かけ17年、インタビュアーをつとめた。
番組としても24年続いた、長寿番組のひとつだが、ご存じの方はあまり多くないと思う。
見た人は皆、「いい番組だね」と言ってくれるのだが、評判と視聴率は必ずしも比例せず...
深夜や早朝、番組編成の最後に、するりとはめ込まれるような形で放送してきた。


その時活躍している、あるいはこれから飛躍しそうな、画家や彫刻家のアトリエを訪ね、
制作の様子を撮影、そして、じっくりと時間をかけたインタビュー。
率直で、しかも含蓄のあるアーティストの言葉。作品が生まれる瞬間に立ち会うスリルと喜び...
毎回、宝石を一粒ずつ、自分の心の小箱に仕舞ってゆくような気がした。


テレビの檜舞台といえば、夜7時から10時のゴールデンタイム。
この時間帯の番組を担当することは、いつの時代も若いアナウンサーの憧れである。
華やかで、活気があって、当代の人気タレントから学ぶことも数多い。
何より、視聴者に自分の存在を広く知ってもらうチャンス。
大きなショーウインドーのようなものである。


しかし、知る人ぞ知る地味な番組がもたらしてくれる、小箱の宝石の輝きも、
ゴールデンタイムのまばゆさに引けを取らない。
その思い出は、味わい深く、色あせることがない。


ショーウインドーと小箱。かなうものなら、両方持ちたいけれど...。