6月30日 遠くを近くに

久しぶりに会った知人が、「近頃のテレビ、面白いね」と言う。
これまでスタジオにいたタレントやコメンテーターが、自宅からリモート出演すると、
表情や雰囲気がいつもと違い、素顔を垣間見る感じで、新鮮なのだという。
「ときどき映像が止まったり、ブチッと音声が途切れたりするのも笑える」そうだ。
出演する側は、スタジオ→視聴者、というダイレクトな送球が、
自宅→スタジオ→視聴者、と中継ぎが挟まる感じで、
不安やもどかしさを覚えているのだが、
出演者の自宅→視聴者の自宅、は
日常の生活空間という共通点で、かえって近しく感じられるのかもしれない。


テレビジョン、すなわち「遠くの像を見る」機械から流れる映像を
遠く感じさせないために、テレビ界の先人は技術や演出で工夫を凝らしてきた。
箱根駅伝のレースが始めから終わりまで生中継されていることに、
何の不思議も感じていない視聴者が多いと思うが、
山の中を含め、往復200㎞の映像を途切れることなく放送する難しさ。
初期の頃の技術スタッフの、粘り、執念、ため息も漏れ聞いている...。
「臨場感」を届ける、テレビの仕事。


アナウンサー研修でも、画面に映らないものをリポートせよ、と教わった。
匂い、風のそよぎ、暑さ寒さ、現場に来るまでのエピソード、等々...。
描写力で、遠くの場所を身近に感じてもらう。それがアナウンサーの役割なのだ、と。


今、アナウンサーが現場に行き、対象に迫ることが、難しい状況になっている。
選手への取材もままならない中での実況は、何を伝えればいいのか。
リモートのインタビューで、どこまで本音を引き出せるのか。
スタッフと共に模索する日々が、しばらく続きそうだ。
しかし、画面を通してのインタビューは、思えば、視聴者感覚に近い。
これまで視聴者が感じていた物足りなさを、身をもって知るチャンスかもしれない。
テレビにとっての「新しい日常」。
遠くを近くに引き寄せる新たな方法を、アナウンサーも思い巡らしている。