5月27日 宅配

青年が、ある娘に魅せられた。
思案の末、365枚のハガキを買ってきて、毎日一枚ずつ、思いのたけを書いては送り続けた。
一年たった。その娘は、郵便配達員と結婚してしまった...。


かつて、放送作家の城悠輔さんが教えてくれたジョークである。
その時は、ただ笑い転げたのだが、時が経つにつれ、含蓄のある小話に思えてきた。


視聴者に情報を配達する、アナウンサーという仕事。
喜ばしい話、ほほえましい話もあるが、事件、事故、災害、戦争...
厳しく残酷なニュースも伝えなくてはならない。
宅配のプロが、重い荷物をすっと持ち上げ、繊細で壊れやすい品物を
少しも損なうことなく家庭に届けるように、
アナウンサーは、込み入った情報も、デリケートな情報も、
温度感や質を変えることなく、視聴者ひとりひとりに届けることが求められる。
音読は、区切り方ひとつで意味すら変わってしまう。内容を把握する力、的確な表現力。
ニュースの宅配は、それほど易しいことではない。


娘さんに惚れられた、ラブレターの配達人は、「届ける」仕事の、ひとつの理想形か。
同じ情報でもこの人から聞きたい、この人なら、と視聴者が思ってくれる届け手になれれば、
とアナウンサーは、いつも思っている。