6月2日 あいづち

「はい」が、自然に言えるようになったら一人前、
と、新人アナウンサーの頃、先輩に言われた。
 
喋る仕事、と思われているアナウンサーだが、
料理番組や美術番組、医学番組など、情報・教養系の番組では、聞き手になることが圧倒的に多い。
スポーツ実況も、解説者に対しては聞き手。
ニュース番組でも、さまざまな分野の専門家から解説を引き出すインタビューを、毎日のようにおこなっている。
 
話を聞くときに、質問に勝るとも劣らず大切なのが、あいづち。
「はい」「ええ」「そうですか」「ほう」...言葉だけでなく、うなずきや表情も。
それこそ、「はい」、ひとことでも、言うタイミング、声の大きさ、伸ばし方、語尾の上げ下げなどにより、
相手に気持ちよく話してもらえるようにもなれば、話の流れをさえぎってしまうこともある。

場合によっては、あいづちで相手を挑発し、隠れていた本音を引き出す効果も期待できるのだ。
視聴者の知りたいことを、心地良いリズムで伝えるための小さな打楽器、「あいづち」。
 
インタビューという"即興演奏"の中で、どのように、そっと打ち鳴らすか。
インタビュアーの技量と誠実さが試される。
 
収録の場合は、後の編集作業のことも考えなくてはならない。
「話し手の言葉尻に、君のあいづちが中途半端に引っかかって、カットしにくかったぞ」と叱られないよう、
微妙に間を取って、しかも自然な「はい」や「ええ」。
表情や、首のかしげ方で、言葉のわずかな遅れを補いつつ...。
 
何気なく打ったあいづちが、話し手の機嫌を損ねてしまうこともある。
「なるほど」や「本当ですか?」と、若い聞き手に言われるとムッとする、という人は多い。
「なるほど、なるほど」と重ねたり、「あー、なるほどですね」と軽い調子で言うのは、
目上の人に対してでなくとも、要注意。
 
「へぇ-」「あー、そうなんですか」...ひょいと自然に出ることもあり、1~2回ならばいいけれど、
何度も出てくると、気になる。まあ、言い方にもよりますが。
 
「はい」に始まり、「はい」に極まる。
あいづちは、シンプルな方がいい。