5月5日 隣の研修

10年ほど前のこと。
日本テレビの系列局、北陸のテレビ金沢の若手アナウンサー研修に呼ばれたことがある。
「いつも指導している自局(テレビ金沢)のベテランアナとは別の観点から、アドバイスがほしい」という依頼だった。
 
今なら北陸新幹線だが、当時は飛行機。
普段は直接会う機会の少ない、系列局の仲間との出会いを楽しみに、ちょっぴり旅気分で出かけた。
 
1泊2日。
個人レッスンの形で、ぎっしり詰まったスケジュールだった。
すでに第一線で仕事をしているだけに、
金沢の若手アナウンサーの面々は、反応も吸収も良く、研修していて充実感を覚えた。
アドバイスをすると、跳び上がるようにして、喜んでくれる。
「わァ-!ありがとうございます!私、いつもそう言われているんです!!」
別の若手は、
「あ!私って、やっぱりそうですか?!」
 ・・・むむ、これでは、「別の観点からのアドバイス」という任務を果たしているとはいえないではないか。
 
研修終了後、テレビ金沢アナウンス部の幹部が、
「ありがとうございました。皆、『すごい!すごい!目からウロコです』と言っています。
一体、どんなアドバイスをくださったんですか?」
「あのー、みなさんがいつもおっしゃっていることですよ」と私。
「はあ...?」
 
そうなのだ。
自分の親の言うことはきかなくとも、
友達のお父さん、お母さんから言われたことは、素直に受けとめる。
自局の先輩から日頃、有意義な助言をもらっているのに、身近すぎて有難味を感じていない。
同じことを言われても、他局の先輩のアドバイスは、新鮮で、心に響く。
日本テレビの若手アナウンサーも、系列局のベテランにほめられると嬉しそうに報告してくる。まったく、もう...。
 

その年の日本テレビ系列アナウンス責任者会議で、私は発言した。
「...というわけで、他局の研修は効果がありそうです。
旅費がかさんでもいけませんので、たとえば、青森放送はテレビ岩手、テレビ岩手は宮城テレビ、
というように、それぞれ、隣の県の研修を担当する、というのはいかがでしょうか?」
 
提案は、採用されなかった。