12月16日 生物季節観測

「弥生(やよひ)ついたち、はつ燕(つばめ)」
上田敏の訳詩集「海潮音」の最初の詩は、「燕の歌」
春が来た喜びは、時代も言葉も国境の壁も超えて、私たちの胸に響く。

 

「つばめ初見(しょけん)」と気象庁の生物季節観測では言っている。
駆け出しアナウンサーの頃、天気予報の仕事で日本気象協会に行くと、
「今年のツバメは早いな」とか、「今日、アブラゼミの初鳴きが観測されたよ」
などと、解説をつとめるおじさんたちが、嬉しそうに教えてくれた。

 

その生物季節観測が、来年から大幅に縮小されるという。
植物は現在の34種目を桜やカエデなど6種目に。動物23種目にいたっては、全廃。
さざんかの開花も、うぐいすの初鳴きも、発表されなくなってしまう。
気象台や測候所周辺の生態環境の変化で観測が難しくなったというが、
それを伝えることもまた観測の意義ではなかろうか。
「今年、この界隈ではアキアカネ(赤とんぼ)が見られませんでした」
というのも、寂しいけれど大切な情報である。

 

「東京都心に初ツバメ、平年より2日、去年よりは6日遅い飛来です」
こんな出だしのスポーツ中継もいいと思う。
情報と情感。人間にとって、生き物が織りなす暦は、
手放してはならないものなのではないだろうか。