6月9日 配役

アナウンサーは、番組での役目をスタッフから割り振られる立場。
しかし、私には、ひそかな"配役"の楽しみがある。


ラジオ日本で10年続いている朗読番組、「わたしの図書室」。
随筆、小説、詩集や歌集、手紙を朗読することも。
ナレーションの延長上にある仕事だが、登場人物や台詞の多い小説を読むときは、
演劇的要素が必要で、アナウンサーの私には、荷が重い。
一人で何役もの声を出し、物語を展開。それも、違和感なく、楽しく...ああ、難しい!


最初は、自分自身が混乱しないために、
登場人物ひとりひとりを、好きな俳優さんや女優さんに見立てて、
その人が演じたらこうなるかな、という口調で、練習をしていた。
録音して聞いてみると、キャスティングがうまくいった時は、一人の声でも
それらしく聞こえて、朗読が立体的に仕上がっていくのが感じられた。


妄想、仮想の"配役"だから、大物俳優をずらり並べることもできるし、
時代を超えての"共演"も可能...何と贅沢なことか!
しかも私の演技では、当の俳優・女優さんに及ぶべくもないので、
物真似と言われることもない。


時には、役者さんでなく、身近な人物を割り振ると、うまく行くことがある。
アナウンス部の同僚も、これまでに何人か、私の朗読に、無断で"登場"させている。
芥川龍之介の「運」には、若手のTアナ、山田詠美の「無銭優雅」には、中堅のMアナ。
女性の半生を綴った角田光代の「口紅のとき」は、
新人からベテランまで、5人の女性アナのイメージを借りた。
もっとも、60歳代と70歳代は、私自身の声で、すんなり読めてしまったが...。


以前、美術番組で取材した、花の絵を手がける版画家が、
「花瓶という舞台に、花という役者をキャスティングし、演出する」
と嬉しそうに話していた。
自由気ままな、配役の妙味。
作品づくりのためということで、"出演"の皆様、どうかお許しあれ!