11月30日 晩秋

日勤を終えて会社を出ると、もうとっぷりと日が暮れている。
風の冷たさに、いつしか足早になり、何となく心細い季節。
若い頃は、来し方行く末を考えて、物思いに沈むことが多かった。
もっとも、最近は、そんな気分になることもない。
"行く末"がたっぷりあるからこそ、"来し方"なんてものを思い、あれこれと悩むのかもしれない。
  
今までで一番落ち込んだ秋は、1991年。
アナウンサーになって10年が過ぎた頃だった。
情報番組、ニュース。
ささやかではあるが、バラエティー番組やスポーツ実況にもたずさわり、
20代のうちに、この仕事のひとわたりを経験させてもらった。
早朝の情報番組でテレビの新たな時間帯を開拓し、
夕方のニュースでは、まだ珍しかった女性メインキャスターをつとめた。
 
さまざまな機会を与えられたのに、どの分野も専門性という点では浅く、心もとなく、
10年経ったのに一人前とは言えない私。
若さだけでチャレンジできる時期は過ぎ、はや30代も半ばに近づいている。
これから、どうすればいいんだろう...。
  
鬱々としていた時、美術番組の撮影で、あるベテラン女流画家にお会いした。
力強い筆致で、光を放つような絵を描く人。
若き日、一枚の絵に魅せられ、四年浪人して芸大へ。
最良の理解者である伴侶を得るも、先立たれ、
「絵しか、すがるものがない。もう終わり、と思うところが始まりなの」と、ひとり、キャンバスに向かう。
  

  
最新作のタイトルは、『明日へ』。
絶望をくぐり抜けた彼女の明るさに接しているうちに、私の心に小川が流れ出したような気がした...。
   
数日間の撮影が終わった時、個展のパンフレットに一筆書いてくださった。
サインと共に、私の名前、そしてその横に、『夜明けの人』とあった。
「あなたは、これからの人だから」
その後、いくつかの番組を手がけて、今、私はその時の女流画家と同じ年齢になった。