6月17日 ニュースの言葉

昔住んでいた家の近所に、日本語学校があった。
時々、講師の声が風にのって聞こえてくる。
あるとき、ベテランの女性講師がこのような説明をしていた。
 
「『運賃改定』。これは、値上げのことです。
『運賃改定』と言うときは、必ず、値上げです。
では、値下げのときにはどう言うか?ただ、『値下げ』と言います」
 
日本語を学んでいる外国人の生徒たちも、声を立てて笑っている。
皮肉とユーモアたっぷりの解説。
しかし、言われてみればその通りだな、と思った。
  
ニュース番組では、本番前にキャスターが原稿を下読みして、地名・人名を確認したり、
「てにをは」など、言葉のチェックをしたり、項目ごとの時間を計ったりする。
「この『○○町』は、『まち』ですか、『ちょう』ですか?」
「この文は受身形だから、助詞はこっちじゃないかしら?」
「耳で聞いて分かりにくい。この言葉、言い換えられませんか?」
「1分原稿ですよね?15秒オーバーです。ちょっと長すぎる」等々...
 
原稿を書いた記者や、その日の放送を統括する、番組デスクとやりとりしながら、
ニュース原稿を整え、時間枠に納まるよう、調整していく。
 
「漢字が多くて、この原稿、イヤだ」と言ったこともある。
わがままに聞こえるかも知れないが、そうではない。
漢字の多すぎるニュース原稿は、聞きづらく、伝わりにくいのだ。
テレビのニュースは、文字ではなく音声。
話し言葉が基本。
 
人は、分かりやすく話そうとするとき、漢語を多くは使わないものである。
逆に、言いにくい事柄や、自分でもよく分かっていないことを話す場合に、漢語やカタカナ語を随所にちりばめる...。
 
「運賃改定」は、すなわち、値上げ?ひょっとして、値下げ?
書き言葉と話し言葉の間を行き来することで、
ニュースの本質が見えてくる場合もあるのではないか。
公の場で飛び交う漢語、専門用語の真の意味に、
ニュースキャスターを務めるアナウンサーは敏感にならなくては、と思う。