1月22日 鈴木 健

『サッカーの神様がベンチに座った、93回目の決勝戦』
 
成人の日に埼玉スタジアム2002で行われた第93回全国高校サッカー選手権大会決勝。
どちらも初優勝をかけた熱戦は、お互い一歩も譲らずに延長戦となりましたが、
最後は石川県代表の星稜高校が悲願を達成!
監督不在というアクシデントを、選手たちが素晴らしい団結力で乗り越えた勝利でした。
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一方、群馬県代表の前橋育英高校は敗れたものの、
一時は逆転するなど、高い能力を見せて4万6000人の観客を魅了。
今大会最高の美しき敗者でした。
次回大会は、前橋育英高校のリベンジに注目です。
 
入社以来、四半世紀の長きにわたり高校サッカー中継に携わり、
多くのことを学ばせてもらいましたが、今回ほど心動かされる選手権はありませんでした。
 
ニュースなどで既報の通り、星稜高校の河﨑護監督が大会直前の交通事故による入院で不在。
監督にとっても、スタッフや選手たちにとっても、大変な18日間だったと思います。
監督が試合中にいつも座るベンチでの定位置、ピッチ中央に一番近いシートは、
初戦から決勝までの5試合、河﨑監督のためにずっと空けてありました。
 
決勝前日、入院中の河﨑監督からお聞きした熱い思いを、ここに紹介します。
 
 
【河﨑護監督の決勝前夜の話】
 
12/26、御殿場での最終合宿に向かう途中で事故にあってしまったが、
最終合宿でのテーマは30人の登録選手の心を一つにまとめることだった。
試合に出る選手も出られない選手もお互いに気を遣い合うこと、
ひとつのボールを皆で追うこと、仲間のミスを皆で支え合うこと、
こういう気持ちの部分での仕上げを最後にやりたかった。
 
でも、私が不在にすることによって、子供たちがそのテーマを自分たちの力でやってくれたようだ。
自分たちがしっかりしないといけないとなったのだろう。
去年の準優勝経験者を中心によくまとまった。
特にキャプテンの⑤鈴木大誠がうまくやってくれた。
仲間を信じようというキャプテンの思いに、仲間たちがしっかりと応えてくれたのだと思う。
今のチームからは、選手同士が素直になれている雰囲気を感じる。
 
今の3年生は、1年生、2年生とあの舞台(注1)を経験している。
やはりその経験は大きい。
彼らが1年生の時の3年生は準々決勝に勝った時に大騒ぎして、
「国立」へ行くことが最終目標のようになってしまった。
気を引きしめたつもりだったが、国立での準決勝では点を取っては取られる展開となり、
ミスを指摘し合うこともできずズルズル行ってしまった。(注2)
 
去年は準々決勝に勝った後にキャプテンの寺村が、
「目標は国立じゃない、優勝だ」とコメントしていたのでチームは成長していると思った。
でも、初めての経験となった決勝戦の日、
選手たちの顔が今までとは全く違う緊張感にあふれていたから、試合前に叱咤激励した。
しかし、心の変化というものほど怖いものはない。
良い試合への入り方ができて2対0とリードしたが、結局はああいう結果となってしまった。(注3)
 
今の3年生は、1、2年生の時に本当にいろいろな経験をできた子たち。
悔しさを糧にして、よくやってくれていると思う。
これは先輩たちが教えてくれた貴重な経験であり、監督の自分には教えられない部分。
今回、準決勝後の選手たちのコメントを見ても浮ついたところはないし、決勝は普段通りにできると思う。
 
決勝はベッドの上からTV中継を見ます。
TVに向かってぼやいているだろう(笑)。
「もっとシンプルに!」 「そこでクロス!」とか・・。
きっとベンチに座っている気持ちになるでしょう。
このチームは大会に入ってから、本当に良いチームになった。
スタッフとの関係も良いようだし、選手とスタッフにすべてを任せます。
 
(対戦する前橋育英の監督)山田耕介とは同い年。
準決勝の前に、「耕介と決勝で対戦できたら幸せだな」と思っていた。
だから、嬉しくて、嬉しくて・・(涙)。
 
さっき(三重・四日市中央工業の監督で同い年)樋口士郎からメールが来て、
「両校優勝にしてあげたい」って書いてあった(泣き笑)。
こんな大きな舞台で耕介と試合ができるなんて、昔の苦労を思い出すと・・。
一緒に酒を飲みながらサッカーの話をしたり、合宿に呼んでもらったり、
耕介には本当に感謝している。だから、決勝では最高のゲームがしたい。
 
決勝という公の舞台で個人のことを言うのは憚られますが、
自分はサッカーが本当に大好きな、高校サッカーが大好きなおじさんだけれど、
豊田陽平とか本田圭佑のような選手(注4)をもう一度出すのが夢なんです。
夢に向かって、金沢で、和倉(注5)で、石川で頑張っていることを、
申し訳ないが、全国の人に伝えてください。
 
明日の決勝のピッチにはいられませんが、
高校サッカーを30年間頑張ってきて、こんな嬉しいことはありません。

 
 
全国の高校サッカー関係者が感動し、勇気を奮い起こした河﨑監督の言葉。
まさに、これが、『高校サッカー魂』です!

 

今回、サッカーの神様は、星稜高校のベンチ、河﨑監督のために空けてあった場所に座っていたようです。

 

注1)国立競技場。前回大会まで準決勝・決勝を開催。「国立」は高校サッカー関係者にとっての憧れの場所であった。
現在、国立競技場は2020年東京オリンピック・パラリンピックのために建て替え工事中。
注2)第91回大会の準決勝。宮崎・鵬翔高校に2度追いつかれる展開となり、2対2でタイムアップ!PK戦で敗退。
注3)第92回大会の決勝。富山第一高校を2対0でリードしていたが、終了間際に追いつかれ、延長戦で敗戦。
注4)星稜高校サッカー部OBで、ともに現日本代表。
注5)能登半島の和倉温泉に、人工芝ピッチ3面を擁するサッカー施設の建設に尽力。
夏休みに全国から多くのチームを招いたサッカーフェスティバルを開催し、高校生年代全体のレベルアップに貢献。