5月25日 中島 芽生

はふはふと、手作りのこんにゃく、キノコの煮物を頬張る。その手はたき火のススで真っ黒。
「しもうた。卵、入れればよかったのう。」
2人の笑い声が、静かで、それでいて賑やかな山に響き、目の皺が、幸せを物語る。

担当しているnews everyで紹介した、
山口放送が25年取材を続けた夫婦のドキュメンタリー映画「ふたりの桃源郷」。
それを10分にまとめたVTRに心打たれ、どうしても全編を観たくて、
先日、東中野にある映画館まで足を運んだ。

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周りのお客さんは、おじいちゃんおばあちゃん世代の方々ばかり。
それでも、席は満席を超え、
通路には座布団を敷き、立ち見の方も出るほど、
小さな映画館は開演を前に熱気に満ちていた。

描かれているのは、ジオラマのような山の谷間に、ひっそりと佇む「桃源郷」。
電気も水道も通っていないそこには、田中寅夫じいちゃんと、フサコばあちゃんの2人だけ。
2人の日常とたくさんの山の幸。
そして食卓を囲む家族の姿はみる者を不思議と惹き付ける。

「生きることは食べること。お金じゃない。」
壮絶な戦争を乗り越え選んだ、自分で食べるものは自分で作るという道。
山を切り開き、自然の恵みだけで生きる事は決して楽ではなかったはず。
けれど2人の暮らしはいつも自然への「感謝」と、
築き上げた暮らしへの「誇り」と共にあった。

そして今、2人が残した道を3人の娘たちが大切に踏みしめて生きているという。
娘夫婦が畑を耕す姿が、虎夫じいちゃんとフサコばあちゃんにそっくりで、見間違えるほど。
25年という月日は、「娘」を「おばあちゃん」に変えてしまったけれど、
そこには変わらない、自然と共に生きる家族の姿があった。

この作品は、都会の豊かさに甘え、なんとなく日々を過ごしてしまっていた私に、そっと語りかけてくれているように感じた。
桃源郷は遠く彼方や山奥にあるわけではない。
勁草之節、自分で切り開いていった道の先こそが、自分だけの桃源郷なのだと。
これからどんな道にしていきたいか、日々の一歩一歩を踏みしめたい。