
東京帝国大学の教授をしている上野秀次郎(松方弘樹)の渋谷の自宅に一匹の子犬が到着したのは、大正12年の暮れのことであった。秀次郎は、一人娘の千鶴子(乙葉)にせがまれ、かねてから知人に秋田犬を注文していた。その子犬が東北の田舎からはるばる列車に揺られてやってきたのだ。前足を八の字のように左右に突っ張ったその格好から、付けられた名前はハチ。賢く可愛いハチは、たちまち秀次郎、妻の静子(泉ピン子)、書生の尾形才吉(ドロンズ石本)、女中のお吉(水町レイコ)らの人気者になった。
まもなく、世話役のはずの千鶴子が付き合っていた外務省勤務の森山績(西川忠志)の子供を宿し、急きょ結婚の運びとなった。千鶴子が森山と二人だけで生活する、と宣言したことから、秀次郎はハチの新しい飼い主を捜す。だが、世話をしているうちに情が湧いた秀次郎は、そのまま自分の家でハチを飼うことを決めた。
スクスク成長したハチは、1歳近くになるとすっかり秋田犬らしくたくましくなった。そして、その頃から、ハチは大学に通う秀次郎の駅までの道の送り迎えをするようになった。朝、ハチと一緒に渋谷の駅に行った秀次郎は、引き綱を外しカバンに入れて改札口を通る。秀次郎を見送った後、ハチは自分で家に帰る。夕方には駅の改札で秀次郎の帰りを待ち、引き綱を付けてもらって一緒に戻る−。雨の日も雪の日も、毎日、秀次郎を送り迎えするハチの姿を見た近所の人たちは、その忠犬ぶりに感嘆した。
もちろん、秀次郎もハチを可愛がった。秀次郎は、千鶴子が生んだ赤ん坊には興味を示さなかったが、ハチに対しては、ノミを採ってその数を自慢したり、一緒に風呂に入ったりと、その世話に夢中だった。嵐の日には、濡れたハチを自分の書斎に連れ込んで一緒に寝ることもあった。
やがて、そのハチに大きな転機が訪れた。秀次郎が大学内で急死したことから、静子は今住んでいる家を出ることになったのだ。静子は、一時千鶴子の家に身を寄せ、和歌山の実家に戻ろうと決意。ハチは、浅草に住む静子の親戚にもらわれた。
だが、静子はすぐに自分の判断が間違っていると気付いた。なんと、ハチが浅草の家を逃げ出し、渋谷まで戻ってきたのだ。静子は仕方なく、家を出入りしていた気のいい植木職人の菊さん(徳井優)にハチをもらってもらい、和歌山に戻った。
そんな静子に、菊さんが死んだという知らせ。慌てて戻った静子は、痩せて汚れたハチが、足を引きずりながら、渋谷の改札口にいるのを見つけた。ハチは、二度と姿を見せるはずのない秀次郎の帰りを待っていたのだ。静子はヨボヨボのハチを連れて駅近くの宿に泊まるが・・・。