
新進の推理作家・西村京太郎(内藤剛志)が、ピンクの封筒に入ったそのファンレターを受け取ったのは、昭和41年のことであった。当時、36歳だった京太郎は、江戸川乱歩賞を受賞したものの、人気は上がらずに鬱々としていた。華やかな手紙の文面に興味を抱いた京太郎は、わざわざ京都にまで足を運び、そのファン、4歳年下の山村美紗(浅野ゆう子)と顔を合わせた。
以前、中学校の教師をしていた美紗は、推理作家を目指す女性だった。株とアパート経営で生活費を稼いでいる美紗は瀟洒な二階建ての家で、乱歩賞を目指し執筆に明け暮れていた。美紗の作品は、昭和45年、47年、48年に乱歩賞の候補になったが、あと一歩で賞を逃がしていた。美紗の作品は、秀逸なトリックは大いに評価されたものの、文章がそれに伴わなかったのだ。
美紗と仲良くなった京太郎は、そんな美紗の弱点を指摘した。しかし、美紗は、文章をこねくり回して売れない純文学作品を書くより、より多くの人に読まれ愛される作品を作りたい、と反論。美紗の潔い態度を目の当たりにした京太郎は、いつしか心引かれ、プロポーズしていた。美紗は、そんな京太郎の思いをあっさりと断ち切った。実は、美紗には、紅葉(濱田万葉)という娘がいたのだ。
その紅葉が12歳の時、美紗のことが忘れられない京太郎が、なんと東京から京都市内のマンションに引っ越してきた。親友で純文学作品を書いている貧乏作家の三木(小倉一郎)は、京太郎のことを心配する。しかし、美紗の近くにいたいという京太郎の思いは、以後、変わることがなかった。
そんなある日、美紗の家に平田三郎(吹越満)という出版社の編集者が訪れ、思わぬ話を切り出した。それは、乱歩賞の候補となった作品「ゆらぐ海溝」の出版話。美紗は当初、この話を信じることが出来なったが、本当だと分かると破顔一笑。この作品は、「マラッカ海峡に消えた」というタイトルで出版され、ミステリー界の巨人・松本清張に絶賛されると共に、巷の読者の心を捉えた。
美紗の姿勢に影響されるように、京太郎も売れる作品を書くことを心掛けるようになった。美紗と戦友になる約束をした京太郎は結婚の話をも願ったが、美紗に夫がいることが分かり、結局、それが果たされることはなかった。
やがて、ミステリー界の売れっ子になった美紗と京太郎には、執筆依頼が殺到した。しかし、作風が変わった京太郎を、三木は厳しく批評した。読者に媚を売っている、と京太郎を責める三木。そんな話を耳にした美紗は、愛する分身をかばうかのように、目に涙を浮かべて京太郎を擁護。この思いに打たれた三木は、それ以上何も言えなくなり、引き下がらざるを得なくなった。
やがて、妬み混じりの誹謗中傷を受けながらも、美紗は和風旅館の本館と別館を京太郎と共同購入。2人は互いに励ましあいながら、健筆を振るうが―。