明雄さんのにっぽん農業ノート

イチゴ〈バラ科オランダイチゴ属〉

  • 果物ではなく、野菜に分類される。
    (1年生及び多年生の植物になる実は野菜、永年生の樹木になる実は果物と分類される)
  • ビタミンC・食物繊維・ペクチン(血糖値の上昇を抑える効果がある)が豊富だが、カロリーは控えめ。
  • 赤い色素成分は「アントシアニン(ポリフェノールの一種)」。目の健康に対して有効なほか、ガンの抑制や肝機能改善効果などがある。

栃木県におけるイチゴ栽培
昭和27年に、宇都宮市姿川地区と御厨町(現足利市)で集団栽培されたのが産地の始まり、昭和30年代には、収益が高い事で水稲の裏作として急速に広まる。

生産量

  • 43年間、生産量日本一位を誇る。
  • 県内では、真岡市が生産量一位
  • 2,000人以上の栽培農家がおり、県内の作付け面積は、638ha(東京ドーム約138個分)ある。

生産量日本一の三大要素
①日照時間
冬は天気の日が多く、日照時間が長い。
②内陸性の気候
気温の年変化や日変化が大きく、降水量・湿度ともに小さい。
③都心に近い
都心まで、およそ2時間しかかからない。早い流通は傷みやすいイチゴにとって好都合だった。

イチゴ栽培農家
高木 正夫(たかぎ まさお)さん (67歳)

イチゴ栽培歴48年。イチゴの栽培状況、果実の品質を競う「いちご王国グランプリ」の2011年大賞を受賞。

栽培品種

とちおとめ

  • 東日本で多く栽培される。
  • 県内の作付け面積の約99%(JAの部会に入っている農家のみの統計)がとちおとめ。
  • 品種別としては、作付け面積が全国の3割以上を占める。
    ※2011年12月に、種苗法の存続期間(15年)が切れた為、許可なしに栽培が可能に。

特徴

  • 女峰よりも果実が大きく、甘い。
  • 糖酸のバランスがいい。
  • 食味が良く、高い市場評価を得ている。

栽培の工夫

①セイヨウミツバチ

  • イチゴの花を受粉させる。
  • きちんと受精しないと形が悪くなる。
  • 温度が11度以上で活動(ニホンミツバチは15度以上)
    受粉の目安:受粉すると雄しべが黒くなる。

②ウォーターカーテン

  • 二重のハウスの一重にスプリングクラーで15℃の地下水をかける
    夏:30℃を超えるハウス内を、15℃の地下水を汲み上げ、屋根に流すことにより、19℃に保つ。
    疑似的に秋の空間を作り、花芽分化を促進する。
    冬:氷点下になるハウス内を保温し、5℃以下になりイチゴが休眠するのを防ぐ。

③高畝

  • 地面にイチゴが触れるのを防ぐ為、約50cmと高めに作られる。
  • 表面積も増え、日光が当たる面積も広がるので地温が保たれる。

土壌

黒ボク土
主に、火山灰(関東ローム層)の上に有機物が堆積して出来た土。透水力と保水性を兼ね備えた土壌。

栽培

促成栽培

  • 促成栽培とは出荷時期を人工的に早める事。
  • 3月から出荷していたものが、ハウスや暖房施設等の普及により2月さらに1月の出荷と変化した。
  • クリスマス等の需要があり、促成栽培用の品種が導入され、早出し技術確立もあいまって促成栽培がさらに進んだ。

花芽分化
低温・短日条件下で花芽分化され、花芽が発生する。その為、各農家の方は低温処理を施している。

低温処理

  • 苗を気温の低い高冷地に持って行き低温に当て花芽分化させる「高冷地育苗(山上げ)」。
  • 苗を夜冷庫に入れる。
  • ウォーター夜冷(ウォーターカーテンと仕組みは同じ)
    これらのような方法など、様々ある。

痩果(そうか)と花托(かたく)
痩果(そうか):果実にあたる部分。
花托(かたく):痩果の土台になる部分。
イチゴは、柿やリンゴなどと違い子房が肥大しない代わりに花托が肥大する。これを偽物の果実と書いて偽果(ぎか)という。

冬にできるイチゴが大きく甘い訳
春のいちごは、30日弱で成熟するが、厳寒期はおよそ45日程度かかり、じっくり成熟するので、糖度がのる。

明雄さんメモ

  • イチゴはつくったことあったけど、実がついたら藁を敷くくらいで、自然まかせだったな。小粒で酸っぱいものが多かったな。
  • 村でも高畝にしてたら水はけも良くなるし、地面に付かずに実が大きくなるから形も良くなって、もっと美味しいイチゴができたかもな。

収穫

収穫後の品質低下が激しく、痛み易い為に、朝7~9時半の気温が低い時間帯に行う。

収穫基準
3日目販売:収穫から3日目に完熟するように収穫(店頭に並ぶイチゴの色よりも薄い状態)
JAでは、規格統一の為に「カラーチャート」を制作し、収穫する赤味の基準を定めている。

収穫方法
①イチゴのヘタ付近の茎を中指と人差し指ではさむ。
②親指でイチゴを軽く抑え、スナップするように摘み取る。
※イチゴは大変デリケートなもので、素人が収穫すると傷がつきやすくなる(押し痛み)

出荷

選果場
収穫したイチゴは、自宅にある選果場でパック詰めをし、JAに出荷。

パックの詰め方
★大きさ・形によって詰め方や個数が変わる
★消費者が購入する段階で、1パックが300gになる様に詰める。

明雄さんメモ

イチゴのパック詰めは調整がなかなかうまく行かないが、難しく考えずに教えてもらった通りの事を実践すれば大丈夫だ。

イチゴ栽培農家
飯山 克則(いいやま かつのり)さん(52歳)

イチゴ栽培歴32年。高設栽培ハウス4棟の他に土耕栽培用のハウスも24棟ある。

高設栽培

  • 立って作業しやすいように畝の高さを高くしたもの。(高説ベンチ:高さが約1m/奥行き約60m)
  • 潅水や追肥等の養液管理が自動化・マニュアル化されている。
  • 土を使わない為、土壌由来の病気の発生や連作障害を軽減できる。
  • 培地として、杉皮(クリプトモス)を利用。
  • 従来の水耕栽培では、味が薄く、水っぽい果実が多いが、土耕に近い品質のいちごを生産できるようになった。

ランナー育苗

  • 親株から出るツル状のものをランナーといい、生長点が高温・長日条件下に晒されると発生する。
  • ランナー上にできる子苗を利用して育苗し、繁殖する。
  • 一つの親株から多くて30個の小苗をとる事が出来る。
  • 通称、太郎、次郎、三郎・・と呼ばれることもある。

明雄さんメモ

  • 作業はすごくやりやすくて、効率的だ。きちんと管理されてるから、どれもみんな形が良くて、おいしかったな。
  • 全く同じようにするのは難しいが、できる事は真似できたらいいな。

イチゴ栽培農家
赤木 博(あかぎ ひろし)さん (71歳)

女峰の開発者。近年、病気に強く、「女峰」より「おいしい」苺を目指し、7年の歳月をかけて新品種「ロイヤルクイーン」を開発した。

女峰

  • 赤木さんが開発し、昭和60年1月に品種登録。
  • 「とちおとめ」は女峰の孫にあたる。
  • 早くて2月からの収穫だったイチゴをクリスマスに出荷を可能にした。
  • 開発までに16年かかった。
  • 村では女峰を栽培していた。

ロイヤルクイーン

  • 2008年に品種登録。
  • 首都圏のデパートで販売される。贈答用の12粒入りは、一箱で3500円。
  • 名前の由来は、ひとつ上の高貴ないちごをイメージしてつけられた。
  • 糖度は、天候によって変動するがおよそ13度。

特徴

  • 表面はやや硬めだが、中はやわらかく果汁が豊富。
  • できるだけ水をおさえて栽培することで、果皮はしっかりし甘さをたっぷりと溜め込む。
  • 根のはりが良い。女峰の倍。
    →根が地中深くまで張り地下水を自分で汲み取る為、水やりが月に1回ですむ。

品種改良

異なるイチゴの品種を掛け合わせて行う。
1年目:種で栽培
2年目以降:ランナーで増やし、選抜。5~6年はかかる。
※種で栽培する事によって全く違うイチゴができる。

選別方法
⇒甘い
⇒病気に強い
⇒果実の形
黄色⇒花房がバランス良く出る
⇒樹勢が良い
これらの色が塗られた割り箸を目印に、その特性が出た株に挿す。この割り箸が5本立てば品種登録し、商品化される可能性が高い。しかし、5本立つ事は滅多にない。

工程
①母親(開花前の未熟な花)にする花の雄しべを取り除き、雌しべのみに。
②父親にする花の花粉と交配。
③袋がけをし、5日~1週間置く。
④それに雄しべを受粉させ、再度袋掛けをする→母親の遺伝子が強く出る。
⑤熟した実をミキサーにかけ、採種。沈んだ種のみを乾燥させる。
※浮いてきた種は未受精の種なので発芽しない。
⑥播種:発芽しなくなってしまうので、土は被せない。
(好光性種子=発芽するとき光があった方が発芽が促進される種)
※反対に光に当たると発芽が抑制されるタネを嫌光性種子と呼ぶ。

明雄さんメモ

  • ロイヤルクイーンは、今まで食べたイチゴの中で一番美味しいイチゴだった!水分もあるし、甘いし本当に最高だ。
  • 冷蔵庫の中で一週間以上は品質も変わらず、美味しいままだった。