明雄さんのにっぽん農業ノート

  • 東京駅から電車で2時間。
  • 300万の都民の水を供給する水源地。
  • 94%が山に占められ、標高は、300m~2000m級までにもなる。
  • 平坦な場所はほぼなく、30~40度の急斜地が多い。この土地柄、独特な農法が残った。
  • 巨樹の数が日本一多い。
  • 高齢化に悩み、60代以上が大半を占める。(平均年齢:57歳)
  • 奥多摩駅周辺にはスーパーやコンビニはあるが、山の奥になると店がなく、多くの住民は週に4回やって来る移動販売(引き売り)を利用している。
    ※音楽をならして、それを合図に集まる。
    ※野菜や果物以外にも冷蔵機能があるので、肉や魚などの生ものも販売している。

わさび(アブラナ科)

  • 日陰に生育する多年生植物。
  • 九州から北海道まで全国各地の山谷に自生している。
  • 奥多摩では300~1200m付近までのところで栽培されているが、生育状況のいいのは600mのところとされている。
    ※標高が高ければ冬期に低温によって寒害になる。対策は寒冷しゃなど。

成長段階

わさびは4つの段階をへて成長する。

3月:新芽が出来、6月まで茎葉伸長・根茎肥大する。
4~5月:花が咲く
6月中旬まで:種子が結実
7~8月:わさびの生育が鈍る。
9~11月:茎葉・根茎が再び肥大
生育が停滞する。

栽培温度

生育温度:8~18℃
適正温度:12~15℃

  • 地上部は気温が8℃以下で生長が止まり、零下3℃以下で冷害を受ける。
  • 18℃以上になると腐敗病やすみ入病などの病害を受ける。

ワサビの栽培にとって水は最も大切なもので、養水と呼ばれるほど。
※水に融けている酸素の量が多い方が、生育がいい。(湧水の方が酸素の量が多い)

  • 94%を山が占める奥多摩は、清水が涌き上がる事でも有名。その湧水を使ったわさび作りが、江戸時代から盛んだった。
  • 程良い香りと辛さの中にほんのりとした甘さがあり、葉や花は和え物やおひたし・天ぷら等、茎は薬味にと余すことなく食べられる。
  • 他の産地では川に湧き出る伏流水を利用することが多いのに対し、奥多摩では標高300~1000mの山の沢で栽培される。
  • わさびの生産量日本一を誇る伊豆のわさびは、かつて台風で全滅したが、奥多摩のわさびを株分けし、今の日本一に至っている。
  • 際立つ香りと強い粘りけが特長。

奥多摩のワサビ栽培の特徴

水量や谷の傾斜に関しては奥多摩方式と呼ばれる築田方式を開発

わさび栽培法

作土洗い

  • 噴水式ポンプのホースを繋ぎ、その先に金属製の噴水管を付ける。これを作土層の中に挿入し(30~40cm)、吹き出す水で作土層の砂礫に付いた腐植や粘土を洗い流す。
    ※これにより細かい粒子の土層が一気に地表面に集まり理想的な作土層になる。
  • 栽培期間は11~18ヶ月にも及ぶので、植え付け前の生育に関わる重要な作業になる。
    ※作土層を柔らかくし、透水性を改善。
    ※病原菌が繁殖しやすい腐植や粘土を洗い流す。

作切り

水が均等に流れるように作を作り、作に苗を植え付ける。
わさび田の上流から下流に向かってかずさ(わさび田で使われる鍬)で作を切ると、作の両側に石が盛られる。

植え付け

  • 下流に45度ほど倒れるように作土層内に差し込み、そこに苗を植え付け、ガラを軽く押さえる。
    ※わさびは、子が程好く付いた状態が一番良好で、横に植え過ぎると子が付き過ぎて、縦に真っすぐ植えると子は全く生えない。
  • 株間は基本的に15~18cm。

日々の管理

わさびは汚いものを嫌うので、綺麗な水と綺麗な田んぼを保持出来るようにする。
※わさびの周りの落ち葉や泥を除去し、水回りの手入れをこまめに行なう。
※草刈りは、こまめに行なう。電動草刈り機を使用すると埃がわさび田に入り、汚れてしまうので、全て手作業。

辛味の仕組み

辛味の本体は「アリル芥子油(からしゆ)」という成分。
しかし、アリル芥子油は元々ワサビの中にあるのではなく、辛味の素となる成分「シニグリン」(アブラナ科に含まれる配糖体)が、すりおろしたり、切ったり、挽いたり、噛んだりして組織を破壊することで「ミロシナーゼ」と酵素反応し生まれる。この2つの成分は葉や茎にも存在しているが少量のため辛味は弱く、根茎部にもっとも多く存在している。

辛味のピーク

本わさびはすりおろして1~3分で香り・辛味のピークに達し、美味しく感じるのはその後10分程度ただし、辛みは時間に比例して増し続けるわけではない。アリル芥子油は不安定で揮発性の成分である為、時間が経つと辛味や香味は低下する。

明雄さんメモ

  • わさびは、近所に野生のわさびが生えていたから。それをすって食べてたぞ。ただ、野生のわさびだから、奥多摩のわさびのように立派なものではなくて、すごく小さかったぞ。
  • あんなに立派なわさびになるのは、やっぱり千島さんがきちんと管理しているからだな。なかなかあんなに立派なわさびを栽培出来ないぞ。
  • わさびは、辛いからちょっと苦手だな。でも、長続きしないのは、いいな。

  • 日本に初めて伝わった当時のじゃがいもの品種。遺伝子が原種に近い。
  • 奥多摩で栽培されるのみの、幻のジャガイモ。
  • 昨年の収穫量は初めて1tを超えたが、一般的に販売されるのは200kg程しかなく、地元の直売店で販売されるのみ。都内では買う事さえ出来ない。
    ※昨年は、1kg440円。(男爵などの1.5倍)
  • 男爵などは普通、毎年種芋を購入して植えなくてはならないが、治助芋の場合、種芋からできた芋を翌年の種芋として利用できる。先祖代々、受け継がれていた理由がここにある。
  • 治助芋のブランドを守る為、町で商標登録しているので、町の認証がないと治助芋と言えない。
  • 町の取り組みとして、種の保存を行い、栽培数を増やしているが、テレビなどで紹介された事により知名度が上がり、種芋まで料理に回されてしまうなど、入手するのが非常に困難。

歴史

長崎県 → 山梨県へ

16世紀末、天明の飢饉に見舞われる中、甲府代官・中井清太夫は、幕府の許可を得て長崎に伝わったジャガイモの種芋を取り寄せ、この地域の飢饉を救った。このことから、清太夫は“芋大明神"として、今も祀られている。

山梨県 → 檜原村(東京都)

まず、西多摩地区に伝わったのは、檜原村。檜原村には、現在も「おいねのつる芋」という名で残っているが、この「つる」は蔓ではなく、山梨県の都留市から来ているそうで、昔から檜原村は都留市と交流が深く、嫁入りも多く、『おいね』さんという人が、嫁入りの際に檜原村に持ち込んだ。

檜原村 → 奥多摩町(東京都)

治助というお爺さんが檜原村から種芋を持ち帰ったのがきっかけで、奥多摩地域に広まったので、「治助芋」と呼ばれるようになった。先祖代々受け継がれて来たが、他の地域では、明治以降男爵芋などにおされて姿を消した。長年、現存しないと思われてきたが、峰谷集落で発見。急斜面で砂利の多いさかっぱたけは、他の作物の生育が悪く、今まで残ったと言われる。

治助芋の特徴

  • 奥多摩にしかない。
  • 遺伝子検査をした結果、ジャガイモの原種と似た遺伝子だった。
  • 肥大率が少ない。
    ※男爵の場合、種芋から10倍の大きさになるが、治助芋は6倍ほどにしか肥大しない。
  • さかっぱたけでの治助芋の栽培が適していた。
    ※斜面なので、水はけが良く、余分な水が滞る事がなく、質がいい芋が採れた。
  • 出来のいい年と不出来な年がはっきりと分かれ、収量が不安定。
    ※メークイン・男爵など改良された品種は収量が比較的安定している。

治助芋の味・食感

  • 男爵芋やメークインなどはホクホクとした芋になるが、治助芋はペースト状の食感になる。
  • 形はメークインに似ているが、小粒。その分、味が濃縮されて美味しい。
  • 煮崩れしない品種なので、煮っころがしやネギ味噌で和えて食べる。

さかっぱたけ

奥多摩(さかっぱたけ)の農業の特徴

  1. 斜面を利用
    斜面が多い奥多摩独特の農法。地元で「さか(坂)っぱたけ」とよばれる、斜面を利用した栽培方法。斜面なので大規模化・機械化できず、自分たちが食べるだけの作物を育てる。平地よりも労力を使う。
  2. 独特な鍬使い
    土が下に流出しないように、土を「上へ上へ」と運ぶように耕す独特な鍬使い。山に慣れた地元の人は簡単にやっているように見えるが、実際にやると難しい上、凄く疲れる。
  3. 夏野菜の栽培に最適
    傾斜になっているので、水はけが良く、トマト・キュウリ・オクラなど夏野菜の栽培に適する。
  4. 砂利や石が多い
    水はけが良くなるので芋の栽培に適していた。

明雄さんメモ

  • 整備する前は、俺も少し斜面の土地で畑を耕していたぞ。土地が斜めだと、土がすぐに下に流れるから、本当に大変だった。
  • 治助芋のように原種に近いジャガイモは、昔良く食べてたから、懐かしかったな。
  • 福島でも、サルの被害は多く、電気柵を利用している人もいるな。俺は、いつもバラ線を使ってた。今年は、俺の畑にも張るつもりだ!