現地レポート

「青黒的倶楽部世界杯2008〜世界基準への挑戦(6)〜」

文/下薗 昌記

2008.12.21

ガンバ大阪からGAMBA OSAKAへ――。3日前、欧州王者を相手に演じたインパクトのある準決勝は、世界中に極東の一クラブの存在を印象付けていた。サッカー王国ブラジルの老舗スポーツ紙はネット上で、試合の詳細をリアルタイムに活字化。一方で、欧州ではインテル(イタリア)を率いるモウリーニョがドログバの移籍問題に絡んで「私がインテルの監督であろうと『ガンバ大阪』の監督であろうと、レッドブル・ニューヨークの監督であろうと…」などとその名を引き合いに出す。マンチェスター・ユナイテッドという主役が引き立ったのも、敢然と立ち向かった「名脇役」あってのこと。ただ、幸いにも今大会には三位を決する最後の舞台がガンバ大阪には残されていた。パチューカ戦を前に西野朗監督が「また違う大陸王者と対戦できることが嬉しい」と語れば、大黒柱の遠藤保仁は「クラブのワールドカップに無駄な試合は一試合もない」。かくしてガンバ大阪の今大会最後の挑戦が幕を開けた。

準決勝同様の布陣と顔ぶれで挑むガンバ大阪だが、立ち上がりは出足でパチューカが上回る。「我々が目指してもいいサッカー」と西野監督もそのパスワークを高く評価するメキシコの雄は、明らかにマンチェスター・ユナイテッド戦での疲労が抜けきっていないアジア王者を相手に序盤からボールを支配。一方のガンバ大阪は相手の高いDFラインの背後を素早く突く速攻で活路を探る。

「ゴールにつなげるプレーで正確性を欠いた」(メサ監督)。敵将の嘆きは、両チーム共通の問題点としてこの試合で露呈する。前半14分にガンバ大阪はルーカスの絶妙なパスからチャンスをつかむが播戸竜二が決めきれない。逆にパチューカは直後の19分に左サイドでのダイレクトプレーからヒメネスが決定的な一撃を見舞うも枠をわずかにそらす。

今季は前線に従来の決定力を欠く自チームを西野監督は自嘲気味に「アタッキングサッカーではなくて今季は言うならポゼッションサッカー」と例えたが、ボール支配はあくまでも得点に結び付けてこそ意味をなすものだ。

「あれだけボールを回されるのは国内では経験したことがない」(中澤聡太)。欧州王者を相手にしてでさえ、ポゼッションではわずかながら上回ったガンバ大阪に対して前半のパチューカは67%のボール支配率を誇ったが、チームに焦りはなかった。「相手は遅攻だったけど、こっちは遅攻と速攻の両方あった」と安田理大が振り返ったように、裏に抜け出る速さを持ち味とする播戸と山崎雅人のコンビプレーから前半29分にガンバ大阪が待望の先制点。「日本人2トップでもやれるところを見せたかった」(山崎)。今季は「ACL男」の異名を取り、アジアの各国を相手に勝負強さを見せつけた背番号30は、マンチェスター・ユナイテッド戦に続いて、世界のひのき舞台でも連続で得点を挙げる。

先制してリズムをつかんだアジア王者は、その後もシンプルな展開からチャンスを創出。播戸は自戒を込めて振り返る。「早めに決めていたらもう少しチームとしての戦い方も楽になっていた」。

疲労困憊――。「準決勝の疲れはあったが、プライドだけで戦っていた。今日は勝つことが大事だったから」。最後尾で粘り強い守備を見せ、押し込まれる展開の中で仲間を鼓舞し続けたゲーム主将の山口智は、この試合の位置づけをこう語る。マンチェスター・ユナイテッド戦では自らの「スタイル」に手ごたえを感じる時間帯はあったとは言え、クラブの歴史や選手の顔ぶれ、運営予算から言っても一Jリーグクラブがいきなり、欧州の最先端に肩を並べるのは現実的には夢物語。準決勝でおぼろげながらに得た「自信」は、まず北中米王者にしっかり勝ち切ることでクラブ全体の「確信」へと変わるのだ。クラブのワールドカップでも「楽しんでやりたい」と口にし続けていた遠藤もこの試合に関しては「しっかり勝ってガンバの強さを証明したい」。

後半の立ち上がりに連続して切った交代のカードでパチューカは、局面の打開を図るがガンバ大阪の守備組織に乱れはない。マンチェスター・ユナイテッド戦で見せたような派手なスコアや昨年のチームスローガンである「超攻撃」がどうしても一般的にはチームイメージとして付きまとうが、無失点で切り抜ける堅実さも昨年からガンバ大阪が持つ「顔」の一つでもある。

「やりたい部分を出し切れたわけではないが、持っている力は出し尽くした」(西野監督)。疲労困憊の上に、負傷者などで万全に戦力に程遠いチームを指揮官も適切に導いた。堅守速攻――。後半、ガンバ大阪が選択したのは「世界三位」を目指す上での現実主義。その狙いは選手交代にも表れた。アデレード戦で無念の離脱を余儀なくされた「愛弟子」二川孝広を後半18分に投入。よりシンプルに一本のパスで相手ゴールに迫りうる状況を作り出すとその10分後には守備固め要員である武井捉也をピッチに送り出す。日ごろはシンプルに言葉をかけて送り出す西野監督がボードを使って綿密に指示。「ボードでの説明は初めてだった。相手のサイドの攻撃をケアしろと言われた」(武井)。山崎をワントップに配置し、両サイドに厚みを持たせる4-2-3-1へとシフトチェンジした段階でゲームプランは最少得点差での逃げ切りだった。終盤、メキシコ最古のクラブとしての意地と誇りにかけて、ゴールに迫るパチューカはヒメネスらが幾度か決定機を作り出すが、逆にガンバ大阪も終了間際にCKから「遠藤―山口」のホットラインでポスト直撃のビッグチャンスを作り出す。

そしてタイムアップの笛。「クラブのワールドカップで一勝ができればそれは素晴らしいこと」。大会前の指揮官の目論見を上回る二勝を挙げたガンバ大阪は、横浜の地で勝利の儀式「ワニナレナニワ(輪になれナニワ)」をチームスタッフ全員で披露。見事、「世界三位」の座に輝いた。

「こういう舞台に立たないと経験も積めない」(山口)。「戦い方は十分に通用した」(遠藤)。「この経験をいかに今後につなげるか」(安田理)。アジア王者として挑んだ3つの戦いでその存在感を世界に示したガンバ大阪は「世界基準」という確かな尺度を、クラブ全体でつかみ取った。


●下薗 昌記(しもぞの まさき)・・・1971年大阪市生まれ。ブラジル代表とこよなく愛するサンパウロFCの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーにかかわりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。全国紙記者を経て、2002年にブラジル・サンパウロ市に居を構え、南米各国でのべ400を超える試合を取材する。2005年8月に一時帰国後は、関西を拠点にガンバ大阪やブラジル人選手、監督を対象にサッカー専門誌や一般紙などで執筆。日本テレビではコパ・リベルタドーレスなど南米サッカーの解説も担当する。