2011年12月13日放送

静かな工房で、ノミの音を響かせる人がいます。
おろし金職人、岩渕辰夫(いわぶちたつお)さん。
大根や生姜をおろす、手作りのおろし金を作る、
今では数少なくなった職人の一人。

「初代からは、音でね、ベテランの人の音を頼りに覚えなさい…と。」

耳と指先のカンだけが頼りのつらい修業。それを乗り越えて作り上げてきた作品は、
道具を越えた美しさと使いやすさに溢れています。
熟練の手技でなければ決して出せない「すりおろしの妙味」は、不思議なことに
ある時突然身に付いたと言います。

「ふっと突破されているっていうのかな。上手くなっている。」

岩淵さんのおろし金を使うと、大根と水分が分離しない、
雪のように美しい大根おろしができます。
そんな岩渕さんが心に刻んでいる言葉、それは…

「人間は道具を使う動物である」

「人間は道具を使う動物である」

トマス=カーライル

『人間は道具を使う動物である』道具を使う英知を人間は持つという意味の
イギリスの文筆家、トマス=カーライルの言葉。
40年経っても目立てをし直して使えるおろし金。
巧みな技は、誇り高い職人の腕の中に今も息づいています。