放送内容

2016年9月21日 ON AIR

突然記憶が飛ぶ女性

イギリス中部にある、ノーサンプトンシャー州。
ここの町に住むリアン・リオンさん、43歳。
健康そうに見える彼女だが、実は、非常に重い病に苦しんでいる。


"意識が無くなり不可思議な行動をとる"


1973年に生まれたリアン。
ある日突然、うなる様な声を出し、激しい痙攣を起こした。


直ぐに病院へ。検査の結果は脳が一時的に過剰な興奮状態に陥り、
痙攣や意識が失われる発作を起こす「てんかん」だった。
なんらかの原因で、体に命令を送る電気信号が異常に流れることにより起こる。


処方された薬で痙攣などの発作は出なくなったが、
リアンの場合は奇妙な症状を伴うものだった。


ある日、引きつった様に笑い始めたリアン。
母親が呼びかけても反応せず、ただ笑っている。


数分後、正常に戻ったリアンだったが、笑っていた時の記憶がないという。
リアンはこの謎の奇妙な症状を抱え成長した。


高校生になると、さらにやっかいな症状が現れる。
意識が遠のき、気が付くと全く知らないところに来ていたリアン。
いつか意識が無いまま事故に遭ったり、事件を起こしてしまうのではないか?
そんな不安に苛まれた。


突然意識が途切れる症状は日に1~2度。
リアン自身も予測できず、周りが気付くような前ぶれもない。


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行動範囲が広がるほどに、危険は増える。
意識を失ったまま失禁をすることも。年頃の女の子には、耐え難い事だった。


そしてリアンは、治るどころか発作の回数は多い日で10回にもなった。
外出すると、全く知らないところで意識が戻るという事も増え、
持っていたはずのバッグや携帯電話をよく紛失した。


"脳の重要な個所に異常が見つかる"


しかしその2年後の2002年。彼女にとって大きな転機が。
新たな病院でMRIなどの精密検査を受け直すと、脳の視床下部という箇所に
異変がある事が判明した。


視床下部とは、食欲や性欲など本能機能の調整、また体温や血圧なども調整する
生命維持の中核を担う非常に重要な箇所。


その視床下部に6㎜ほどの小さなコブが発見された。
その病名は、視床下部過誤腫(ししょうかぶかごしゅ)というものだった。


母親の胎内で脳が形成されていく過程で発生する奇形の一種。
過誤腫が異常な電気信号を出すことにより、脳内の様々な箇所で
てんかん発作を引き起こす。


最も代表的な発作は「笑い発作」。奇妙な笑いは、これが原因だった。


こうしてようやく発作の原因が分かったが、
視床下部は脳の中心部にあるため、手術を行うのは非常に困難。


大きな不安はあったが、当時交際していた男性と
長男キエラン、長女ミーガン2人の子どもをもうけた。
子育てはこの病気を持つ彼女には大変な事だった。


意識を失うのは時間にしたらほんの数分。
だが、幼い子どもから目を離してしまう。料理をするにも危険をともなった。


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そんな彼女に更に奇妙な症状が起きる。
スーパーで買い物中に意識を失ったリアン。
しばらくして意識が戻ると、なんとスカートをはいていない。
店員の話によると、自分でスカートを脱ぎ始めたという。


意思とは関係なく行動する身体にリアンは悩み、苦しんだ。


"家族と安心してお出かけするのが夢"


そして、視床下部過誤腫と診断されてから、11年が経った2013年12月。
彼女のSNSにメッセージが届いた。それは、あるアメリカ人からだった。


メッセージの送り主もリアンと同じ視床下部過誤腫を抱えていた。
そのメッセージの内容は自身が半年前、ある手術を受け症状が改善された経験から
リアンにもこの手術を薦めるというものだった。


その方法とは「鍵穴手術」という手術。
頭蓋骨に5ミリほどの穴を開け、そこから細い針のようなものを差し込み、
レーザーで視床下部過誤腫を焼く。


それにより、過誤腫から出される電気信号が無くなり、発作を起こさなくなるという。
患者に対する負担も少なく、合併症を起こす確率も低い。


リアンは直ぐに紹介してもらったアメリカの病院へ手術が可能か問い合わせを行った。
診断の結果、手術は可能。しかし手術には95000ポンド(約¥1240万)も
費用がかかる事がわかった。


そんな大金は無く、現在サイトを立ち上げたり、
イベントを行い必死に寄付を呼び掛けている。


現在も意識を失う発作は多い日で十数回、服を脱いでしまうほどの大きな発作は
月に2度ほど。実は、服を脱ぐという行為は彼女だけの特別な症状。


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リアンの子ども達は、母親の病気が治った時に丸一日お出かけをするのが夢だという。
家族皆、その日が来ることを願っている。

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