放送内容

2017年3月22日 ON AIR

エリート一家の闇ビジネス

1982年、アルゼンチン・ブエノスアイレス。
後に国民の誰もが知ることになる大事件が静かに進行していた。


"政府の元幹部だった父が誘拐を計画"


アルキメデス・プッチオ。政府の元幹部だった男。
男の家は、裕福で理想的な一家として知られていた。


プッチオ家の長男はアレハンドロといい、
ラグビーのアルゼンチン代表に選ばれた事があるプレーヤー。
地元のラグビーチームではスター選手として活躍していた。


そのチームで今、ある問題が。
リカルドというチームメイトが行方不明になったという。
ところが警察が動いている様子はない。
なぜなら1982年当時、アルゼンチンは混乱のさ中にあった。


国を統治していたのは軍事政権。
国民は政府への不満を口にすることは許されず、
危険と判断された思想を持つ人間は拘束され、拷問を受けた。
時に、財産を奪われることも。


政府の人間としてその強引とも思える仕事を遂行していたのがアルキメデスだったのだ。
任務に忠実でプライド高き男として評判だった。


そんな男がまさに突然、クビになった!
アルゼンチンも一気に民主化への機運が高まり出し、
軍事政権の幹部は次々と失脚。そのあおりを受けたのだ。


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政府の幹部として順風満帆な人生を送ってきた、アルキメデス。
年を取ってからの再就職、下っ端の仕事なんてプライドが許さない。
そしてとんでもない考えを持つ。


ある日、アルキメデスは長男でラグビー選手のアレハンドロと
二男を呼びつけ、こう言った。おまえたちの周りに金持ちはいるか?と。
そして、恐ろしい計画を話し始めた。


それは誘拐をして身代金を得る事で生計を立てるという計画だった。
当然、アレハンドロは反発した。しかしアルキメデスは引き下がらない。


今まで、政府の人間としてプライド高く生きてきた。
誘拐して金を稼ぐなど、普通ならあり得ない考えだが、
これまでにアルキメデスは政府の人間として誘拐まがいの仕事をしてきていた。


"誘拐は成功、家族も金に取りつかれる"


すぐに昔の仕事仲間を呼び寄せ、恐ろしい誘拐が始まる。
最初のターゲットは長男のラグビーチームのチームメイト、リカルド。
それは、すぐに実行された。
長男がリカルドを待ち伏せ話しかける。その隙をついて、仲間がリカルドを拘束した。


監禁場所は自宅のゲスト用バスルーム。
人質の食事は父・アルキメデス自身が運んだ。


誘拐の事を知らない家族もいた為、アルキメデスは監禁場所に近づかないよう
釘を刺していた。
当時、父親は絶対的な存在。家族はうっすら危うさを感じつつも
知ってしまう事の恐怖からその言いつけを守った。


そして...リカルドの家に電話をかけた。
身代金、50万ドルを要求。そして、長男にあることを確認させた。
それは、警察の動きだった。長男がチームメイトという近い存在ゆえに探りやすかった。


誘拐から数日...長男・アレハンドロのチームから噂が広まりだしていた。
どうやら警察には通報していないらしい。
リカルドの両親は警察を信頼していなかった。


それに当時、誘拐事件は頻発しており、
身代金を払えば無事に帰されるケースが多かったのだ。


一方、警察が動いていないことを確信するまでアルキメデスは動くつもりはなかった。
表向きは幸せな一家団欒。誘拐に手を染めた父親と長男、二男。
何かを感じてはいるが、何も聞かないほかの家族。


この重い空気の中、リカルドの監禁は11日間にも及んだ。


1982年7月。アルキメデスはようやく動き出す。
リカルドの両親に身代金の受け渡し場所を伝えた。


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翌日、リカルドの父が札束を入れた袋を指定の場所へ。
去っていくのを確認するとアレハンドロが回収した。


その夜...アルキメデスたちはリカルドを連れて山の中へ。
長男はそこでリカルドを解放するのだと聞かされていたが、
なんと父・アルキメデスはリカルドをピストルで撃った。


父を問いつめるアレハンドロ。
しかしアルキメデスは顔を見られたから殺すしかないと言い放った。
最初から殺すつもりだったのだ。


50万ドルもの大金を手にしたアルキメデス一家。


ひどく落ち込んでいた長男・アレハンドロだったが、
その金で父に勧められダイビングの店を始めた。


そして...妻と娘は貴金属を買いあさった。
アルゼンチンの経済は壊滅的な状況が続く中、一家の贅沢は止まらない。
休日は、クルージングをして優雅に過ごす。


誰からも怪しまれることなく9か月が経った。
すると...家族は再び誘拐を計画する。しかも切り出したのは長男だった。


"とん挫した誘拐ビジネス"


長男・アレハンドロは9か月前、店をオープンしたものの
何も考えず金を使った結果、あっという間になくなった。
一度得た大金を忘れられなかった。


1983年5月。
アレハンドロはターゲットに接触すると、
一人目と同様の手口で拉致。


母親に身代金を持ってこさせた。その額...なんと100万ドル。
人質は始末し...またも大金を手に入れたアルキメデス一家。
2つの成功に気を良くすると、とんでもない野望を抱くようになった。


なぜか次の誘拐を急ぐアルキメデス。
実は、この時、とんでもないことを考えていた。
それは、家をもっと大きく立て替えその半分を誘拐してきた人間を閉じ込める
宿泊施設にするという計画。


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何と、誘拐ビジネス用の監獄ハウスを作るというのだ。
情勢の混乱から横行する誘拐ビジネス。
何も自分たちがやらなくても他人にやらせて監禁用の部屋だけ貸せば
継続的な収益が見込めると思ったのだ。


こうして1984年。
葬儀社を経営する女性社長を拉致して家に連れ帰ると今度は地下に監禁した。
その後に家族に電話。そして驚きの金額を要求する。


その額なんと500万ドル。
当然、そんな大金はないという。
金額の折り合いがつかないまま2週間が過ぎた。


もっと金額を下げようという意見もあったが、アルキメデスは譲らなかった。
そう簡単にターゲットは見つからない。
なんとしてもこの誘拐で500万ドルを手にしなければ...。


しびれを切らしたアルキメデスは女性を撮影し、テープを送りつけることにした。
すると女性の家族は折れ、ついに交渉が成立した。


そして、身代金受け渡し当日。
アルキメデスはこれを最後の誘拐にしよう...
そんなことを考えながら金を取りに出た時、警察が目の前に!
あっという間に拘束された。


実は、ずっと身代金の交渉をしていた相手の横には...警察の姿が。
そして当日身代金の受け渡し場所にまっすぐやってくる人物を探していると、
そこにアルキメデスが現れたのだ。


2回の成功体験、そして身代金の交渉が彼を油断させた。
拘束されたアルキメデス・プッチオは無期懲役に。
金に目が眩んだ家族は父親の暴走を止められずバラバラになってしまった。

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