放送内容

2018年4月24日 ON AIR

死を呼ぶ恐怖の花粉

今年、日本で例年にも増して猛威をふるっている花粉だが、
オーストラリアではとんでもないことが起きていた!


何と、花粉症で次々と人が死ぬ。
花粉とある気象条件が合わさると命の危険があるという。
その衝撃のメカニズムとは!?


メルボルンで謎の集団喘息が発生


2016年11月21日。
オーストラリアメルボルン近郊の町サンシャイン・ウエスト。


南半球オーストラリアの11月は、初夏の季節。
喘息もちのジャッキーは、なぜか天候が悪くなると喘息の発作を起こしていた。
この日のメルボルン周辺は風と、雷雨が発生。


うたた寝をしていたジャッキーは息子の泣き声で目を覚ました。
すると喘息の発作が出た為、すぐに吸入器を使った。


いつもならこれでおさまるが、今回は全然効かなかった。
ジャッキーは呼吸困難になり、パートナーのマシューが救急車を呼んだ。


しかし、なぜか何度かけてもつながらない...ジャッキーの意識は朦朧としてきた。


実はこの時、救急コールセンターは大変な事態になっていた。
救急車を要請する電話が殺到し、この日の午後6時以降、6時間で出動要請は何と814件。
ジャッキーは何とか病院に運ばれたが意識を失い、かなり危険な状態だった。


病院の待合室ではたくさんの患者が押し寄せていた。
そして皆が、喘息のような症状を訴えている。


病院で治療を受けた人はメルボルン周辺で何と13,000人に達し、
8500人が診察を受けられずその晩病院で夜を明かした。
そして575人もの人が入院した。


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突然起きた集団喘息だったが、ある不思議な事実が判明した。
患者の多くは、過去に喘息を患った経験がなかったのだ。
嵐の日に突然発症した喘息...一体どういうことなのか?


集団喘息の原因は花粉だった


発症から約24時間が経過。
ジャッキーはなんとか意識を取り戻した。


しかしこの謎の集団喘息で9人もの命が奪われた。
嵐の日に呼吸困難で人が死ぬ謎の現象。


実はこの恐ろしい状況を以前から予測し、警告していた人物がいた。
環境アレルギー専門のフィリップ・テイラー博士。


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テイラー博士によると、この現象は実は30年以上前の1980年代から
起きていたのだという。


1989年、テイラー博士はメルボルン大学の植物学部で研究員として勤務していた。
その年、200人以上の人が集団喘息を起こしていたのだ。
過去にも集団喘息が起きており今回は3度目だった。


そして、上司であるノックス教授があることに気付いた。
全て11月に起きている...もしかしたら、花粉が関係しているかもしれない。


すぐに患者たちのカルテを調べると、
呼吸困難に陥った人達の95%が、ある花粉のアレルギーを持っている事がわかった。


その花粉とは、公園や運動場、道端や庭など
オーストラリアでは身近な場所に生えているライグラスという多年草の花粉。


その開花は初夏にあたる11月。
日本でいえばスギのようにライグラスはオーストラリアで非常に強い
花粉症の原因となっている。


テイラー博士たちは植物学だけでなく、医学、大気物理学、大気科学など
多くの分野の専門家とチームを組んで研究を始めた。


雷雨喘息の脅威とは


花粉の季節と雷雨の日が重なる事で起こる現象。
テイラー博士たちは、これを雷雨喘息と名付けた。


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通常ライグラスの花粉粒子は、鼻腔に入り込み、花粉症を引き起こすが
気管支などには粒子が大きすぎるため入らない。
そのため喘息のような症状は起こしづらい。
だが嵐による温かい上昇気流が花粉を湿った雲の中へ吸い上げると、
水分と電荷が花粉を破裂させ、数十億個の微細粒子に変えてしまう。


小さな粒子は気管や肺に侵入して深刻な喘息を誘発するのだという。


当時これは大発見となり、メディアにも取り上げられたが、
なぜかその後、10年以上も雷雨喘息は起きなかったため、
その言葉すら忘れ去られていったが、小規模の雷雨喘息が起きたため
博士は研究を続けていた。


テイラー博士たちは2012年、世界で唯一の雷雨喘息の警告システムを設立。
独自でデータを収集し雷雨喘息の危険を訴えてきた。


そして2016年11月20日。
雷雨が訪れる24時間前にウェブサイトで警告を出した。
だがこのサイトを見たのはたったの19人だった。


気温が高いほど花粉は飛散する。
高温だったこの日、ライグラスの花粉は極端に多かった。
そして、9人もの犠牲者を出す惨事となってしまったのだ。


こうなって初めて、博士たちの研究が注目された。
新聞には雷雨喘息の見出しが。
政府を巻き込み、初めて州全体で警告するようになった。


近年日本でもゲリラ豪雨が多発し雷を伴った激しい雨が降るが、
専門家によると日本でも雷雨喘息は起きる可能性はあるという。


さらに、日本には雷雨喘息よりももっと恐ろしい現象がある。
それは黄砂やPM2.5のような汚染物質によって花粉が傷つけられて破裂する現象。


花粉粒子とともに大気汚染物質も肺に吸い込んでしまうため症状は雷雨喘息より
ひどくなる可能性があるという。
花粉症の方はこまめに気象状況をチェックし、十分に気をつける必要がある。

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