放送内容

2018年11月27日 ON AIR

日本で一番小さな赤ちゃんの奇跡

2017年1月。沖縄県うるま市。
この町に住む金城さん夫婦。


妻のまゆみさんのお腹には新たな命が...この時、妊娠5か月。
実はまゆみさんは以前から、血圧が高い事を指摘されていた。


彼女は「妊娠高血圧症候群」だった。
この症状が悪化すると、胎盤の血管が縮まり、赤ちゃんに十分な酸素と栄養が送れなくなる。


実はこの夫婦、今まで3度の流産を経験していた。


まゆみさんは、病状が重いため設備の整った沖縄県立中部病院へ。
妊娠高血圧症候群に根本的な治療法はなく、薬で血圧を下げるしかない。
悪化すれば、母親の肝臓や腎臓に機能障害が起こり、最悪の場合、心不全を起こし死に至る。
ただしこの病は胎児を取り出すと母の症状は劇的に改善される。


担当の間瀬医師からは人工中絶も考えなくてはいけないと告げられたが、
自らの命よりも新たな命のほうが大切だと、まゆみさんは中絶する事は頑なに拒否した。


お腹の中の赤ちゃんは胎盤とつながっている。
胎盤は、お母さんの血液から赤ちゃんが成長するために必要な
「酸素」と「栄養」を吸収し、へその緒を通じて赤ちゃんに運ぶ。


赤ちゃんは子宮内に満たされた羊水を飲み、母乳を飲む練習や呼吸の練習をする。
体を動かし、骨格や筋力を鍛え、お腹から出ても生きていける準備をしている。
これにおよそ10か月を要し、生まれてくるのだ。


医学が進歩し、保育器や人工呼吸器の精度は上がっているが、
お腹の中と同じ環境を作り出すことはできない。


24週目までお腹にとどめておければ、肺が完成に近づき呼吸が安定する。
そんな不安の中...お腹の中の子は女の子であることが分った。


だが妊娠22週目に入った時、体がむくみ、胸やお腹にも水が溜まり始めた。
さらに血圧を下げる薬も効果が得られなくなっていた。


もう24週まで持ちこたえる事は不可能な状態に。
つまり母体を守るため胎児を取り出すしかなかった。


帝王切開で産まれた261gの小さな命


生まれた赤ちゃんの治療を担当する、新嘉喜(あらかき)医師にはある心配があった。
それは...医療器具のサイズがないという事。


生まれてすぐに人工呼吸器をつけなければならないが、
この小さな赤ちゃん用の挿管チューブや酸素マスクは作られていないのだ。


医師、そして両親ともに不安を抱えながら迎えた、2017年2月24日。
妊娠22週と6日目にして帝王切開手術による分娩が行われた。


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午前9時7分。
お母さんのお腹から取り上げられた小さな命は、すぐに小児科チームへ。


お母さんのお腹から出てきたこの瞬間から、赤ちゃんは初めて肺を使い呼吸をする。
未熟な肺に必死に酸素を送る。


皮膚は未完成。体温低下を防ぐためラップで体を覆った。
そして気道に残っている羊水を吸い出す。


最も心配されたのが人工呼吸のためのチューブ挿管。
この作業に時間がかかると、赤ちゃんは酸欠状態に陥ってしまう。


ギリギリだったが、なんとか成功した。
これで呼吸の管理は出来る。この時の赤ちゃんの体重はわずか261g。
日本国内で最も低体重で生まれた赤ちゃんだった。(※2017年2月時点)


母親のまゆみさんが我が子と対面できたのは生まれて3日後。
手に触ると握り返す赤ちゃん...まゆみさんはその力強さにきっと元気に育つと感じた。
そしてこの赤ちゃんに「寧々(ねね)」と名付けた。


懸命に生きる!母子の闘い


生後3日が経過した頃の一番の問題は肺の未熟であること。
たとえ人工呼吸器をつけても肺自体が機能しなければ、
体全体に酸素を送る事が出来ず、生命を維持することは難しい。

赤ちゃんにとって大事なのは母乳。
母となったまゆみさんは自分の体も辛かったが、懸命に母乳を出した。


赤ちゃんが直接おっぱいを吸うことによって、
お母さんの体には「プロラクチン」という母乳を作るホルモンが増える。
だが早産だと赤ちゃんに直接吸ってもらうことが出来ず、なかなか出ないのだ。


必死に頑張って搾りだした母乳。
母乳は、口から胃まで通されたチューブで体に入れられた。


寧々ちゃんも必死に飲んだ。
肺は不安定な状態が続いたが、手足をバタバタと動かし、
日に日に大きくなっていった。


そして生後3か月が経った時。
肺の機能が上がり、医師からはもう人工呼吸器を外しても大丈夫という判断が。
これには心配していた両親も安堵した。


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母乳を良く飲み、順調に体重が増え、
小さかった肺が大きく成長出来たことが一番の要因だった。


生後半年が経過し、自分の口で母乳を飲むことができるようになった頃、
ついに寧々ちゃんは退院。体重は、3290gになっていた。


退院から1年経過した現在、1歳9か月になった寧々ちゃん。
すくすくと成長し、体重は6.5キロになった。
最近は、歯も生えてきてご飯もたくさん食べている。


まゆみさんは未熟児出産を経験し、不安になっているお母さんに
自分の経験を知ってもらうことで勇気を持ってもらいたいと語っている。


寧々ちゃんの元気な成長を楽しみにしています。

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