放送内容

2019年9月17日 ON AIR

左脳から出血!衝撃の失行とは?

突然...脳が壊れた25歳の女性。
今まで普通にやっていたことが突然わからなくなる。


携帯の使い方も、洗濯機も、当たり前にやっていた事が出来ない。
さらに、日用品の使い方も間違えてしまう。
突然、身に起こった恐ろしい病、その正体とは。


2008年、宮崎県都城市。
作業療法士として働くさやか。
仕事はハードだったが...やりがいも感じており、帰るのは夜遅くなることも多かった。


そんな彼女に悲劇が。
2009年1月10日...この日、最初の患者の対応をしていた時に異変が!
なんの前触れもなかったのに言葉が出てこない!


そして右腕の力が抜けた。
作業療法士として勉強してきた彼女はある症状が頭に浮かんだが...。
その直後に意識を失った。


大きな病院だったこともあり、すぐに運ばれ検査が行われた。
検査の結果...彼女は脳出血だった。


MRI画像を見ると左脳に血腫が。
すぐに血腫をとり除く手術は行われ、倒れてから1週間後、ようやく目を覚ました。


彼女は左脳にダメージを受けており、それにより右半身が全く動かず、感覚もない。
その後、自分に起きた状況を理解した彼女は、みんなに感謝の気持ちを伝えようとしたが、なんと、「ありがとう」という言葉が思い出せない。


家族に心配かけまいと、明るく振る舞おうとしたが、何と言っていいか言葉が出てこない。
彼女の異変は言葉だけではなかった。


テレビを見ようとした時も...。
リモンコンはテレビをつけるものということはわかっているが、操作方法が思い出せなかった。


彼女に起こった2つの症状


左脳を損傷した彼女に起こったのは「右片麻痺」。
そして、失語や失行の症状が見られた。


主に左脳にダメージを受けると、失語や失行の症状が出る。
失語症には、主に運動性失語と、感覚性失語の2種類がある。
運動性失語とは話を聞いて理解することできるが、言葉が出てこなくなる症状。


この症状の人に、「どこ行ったの?」と聞いても答えられないが、地図を見せれば正しい場所を指差すことができる。
言葉が出てこないさやかはまさにこの運動性失語だった。


もう1つ感覚性失語というのがある。
スラスラと話すが『言い間違い』が生じ、質問の理解が出来ない症状。
例えば、「メガネ」を「時計」と言ったり「みがね」など言い間違えたりする。


そしてもう1つ、さやかに現れた失行症とは、左脳の頭頂葉、または頭頂葉とつながる回路が損傷すると起こる。
その名の通り、何かの行動を失う症状のこと。


失行症には、様々な種類がある。
メガネをかけるように言われて逆さまに顔に当てたり...。
さらに服を上下逆さまに着たり、表裏の区別がつかなくなったり...。
歩く動作を忘れる「歩行失行」や目を閉じることを忘れる「閉眼失行」も。


さやかの場合は一連の動作ができない「観念性失行」と呼ばれるものだった。


観念性失行ではこんなことも...。
フォークの名前も、食事の時に使うものであるという事も分かるのだが、
どうやって使うものなのかが分からなくなった。


ある時、用を足すのに顔なじみの同僚にズボンを下ろしてもらうのが恥ずかしかった彼女は、
なんとか1人でやろうとしたが、床に倒れこんでしまった。


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麻痺で起き上がることもできず、失語症で助けを呼ぶ言葉も分からず、失行症でナースコールの使い方もわからない彼女。
看護師に気づかれるまで床から動けなかった。


それでも毎日、懸命にリハビリし入院から2週間。
半身麻痺の症状は、自分で車椅子に乗れるくらいには回復。


同時に失語のリハビリも...忘れてしまった名前を1つずつ覚えていく。
自分に突然起きた障害を受け入れることは簡単なことではない。


入院から3か月。失った言葉は少しずつ取り戻していったが...。
携帯の使い方を忘れ、電話やメールは放置していた。


親友の言葉で一歩踏み出す


そんなある日、たまたま来たメールを見ると「生きてる?」と書いてあった。
この短い言葉が、彼女には理解できた。
連絡を取らないことで、親友に心配かけていた。申し訳ない思いで必死に電話をした。


思ったように声が出ない...。その親友は学生時代、作業療法士を一緒に目指した仲。
「片麻痺」とだけなんとか伝えると、さやかの話し方からすぐに状態を察知。
病で苦しむ彼女の心の支えになってくれた。


そして入院から6か月。
一人で歩けるようにもなり、会話もゆっくりではあるが話せるようになるまで回復し退院。


しかし、日常生活は...洗濯機が洗うものということはわかるが使い方がわからない。
電子レンジも、温めるものとはわかっているが操作ができない。


当たり前の事ができないさやか。
気力を失い、何もしない日が多くなる。


そんな中、親友との会話の中で働きたいと思うようになったさやか。
しかし、以前のようにうまくできるはずがない...それに耐えられるか。


なかなか踏ん切りがつかない...そんな姿を見た親友がこう言った。


親友「あのさ!さやかさ!働きたい、働きたいって言うけど何も努力してないじゃん!
このままズルズルいったら、もっと社会復帰するのしんどくなるよ!」


退院から4年。この親友の言葉が心に響いた。


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その後、障害者の精神サポートをする社会福祉士の資格を取るため大学の通信教育を受け、
2018年...さやかさんは、国家試験に合格。社会福祉士として働き始めた。


そしてさやかさんは作業療法士に復帰。
今、彼女は失行症に苦しむ人を救いたいとブログなどで発信している。

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