目標は人間を透明にすること。
天才肌の科学者セバスチャン・ケイン(ケビン・ベーコン)が率いる研究プロジェクトの7人は国家最高機密に属し、人間を透明にし、さらに元の姿に戻そうという目標達成のため、日中夜特殊研究に励んでいる。自信家で傲慢なセバスチャンは生物を透明化する血清を発見しており、動物を透明にするところまではすでに成功している。しかし、人体を透明化するあと一歩がなかなか見つけられないでいる。
科学者のリンダ・マッケイはそんなセバスチャンの右腕であり、かつ昔の恋人でもある。リンダは、研究と自分の栄光のことしか頭にないセバスチャンと別れ、現在は同じ研究プロジェクトのマット(ジョシュ・ブローリン)と恋人関係になっているが、彼女に未練が残るセバスチャンはふたりが付き合っていることを知らない。
ある日、セバスチャンは人体の透明化に成功する。いや、正確にいえば透明化のプロセスでもっとも困難とされていた、透明化された体を元の姿に復元する方法をつきとめたのだ。本来ならばこの世紀の発見を上司である国防総省のクレイマー博士(ウィリアム・ディベイン)に真っ先伝えるところだが、国防総省に手柄を横取りされ、研究を終わりにさせられることを恐れたセバスチャンは、上層部に虚偽の報告をし、自ら実験台に名乗りでて研究の成果を試すことにした。危険を孕んだ実験に反対する仲間たちを押し切り、人体実験の被験者になるセバスチャン。
固唾をのみながら見守る一同の心配をよそに、実験は成功してセバスチャンは透明人間となった。透明になった彼はちょっとしたいたずら心がわきあがり、眠っているサラの体を触ったり、トイレで用を足している同僚のジャニス(メアリー・ランドル)を脅かしたりして楽しんでいた。そして、誰からも見られていないという究極の自由の味に徐々に酔いしれていった。
実験から3日後、セバスチャンは元の体に戻るための血清を注入された。しかし、あろうことか、体は元には戻らない。成功と思われていた実験は失敗だったのだ。10日経っても透明人間のままの状態が続くセバスチャンは苛立ちを露わにし、監禁状態に近かった研究所から無断で抜けだし自宅へと戻る。すると、いつも窓越しに着替えを覗き見していた隣人女性の姿が目に入る。彼は透明人間だということを利用してこの家に侵入し、あろうことか女性を暴行してしまう。さらに、かつての恋人だったサラが自分より能力の劣るマットと付き合っていることを知り、怒りを爆発させる。また、一生鏡に自分の姿が映らないという絶望が、研究所の仲間たちへの憎悪と変わっていく。手が付けられなくなってしまったセバスチャンをなんとかしようと、サラとマットは上司のクレイマーにセバスチャンの現状を報告する。しかし、セバスチャンは神がかった力を奪われることを恐れ、とんでもない行動に出る――。
人間凶器と化した透明な天才科学者と、彼の暴走を止めようとする研究員たち。地下の研究所では恐るべき闘いが繰り広げられていた。
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<インビジブル:[名詞] ― 目に見えないもの>
消された男の名はケビン・ベーコン。03年の『ミスティック・リバー』で数々の賞にノミネートされた個性派俳優は、本作で国家最高機密のプロジェクトに参加し、人間を透明にする“透明人間化プログラム”の実験台となる科学者セバスチャンを演じている。しかし、そこはバーホーベン作品。物語は一筋縄ではいかない。なんと、セバスチャンは透明人間になることには成功するが、その後元の姿に戻れなくなってしまうのだ。映画の半分以上を透明人間でいることを余儀なくされたベーコンは、体中に特殊塗料を塗り、特殊な入れ歯、ウィッグをかぶり、スクリーンに映し出すシルエットと動きだけを撮影するといった、通常の撮影の数倍の労力と精神力を費やし、息苦しく不快という史上“最悪”の主役に挑んだのだ。06年に公開されたスパイク・リー監督による『インサイドマン』で、銀行強盗役は映画のほぼ全編を覆面姿で通すという話を聞いたデンゼル・ワシントンが、クライブ・オーエンにその役を譲ったというエピソードからも読み取れると思うが、俳優にとって顔だけでなく、姿までも映らない役というのがどれほどリスクの高いものかを考えてみてほしい。
そんな受難を背負った主人公の元恋人であり、息の合ったパートナー、リンダには『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞主演女優にノミネートされたエリザベス・シュー。美しく、逞しく、かつインテリという、ハーバード大学出の彼女にはまさにハマり役となっている。また、リンダの現在の恋人でありセバスチャンの仕事仲間かつライバルのマット役には、今年のアカデミー賞で話題をさらった『ノーカントリー』のジョシュ・ブローリン。決して一番になれないちょっと頼りない男を演じている。