1944年。戦況が悪化の一途をたどる中、サイパンに続き米軍が上陸すると想定されていた硫黄島では、兵士たちの厳しい訓練が行われていた。島全体には硫黄臭がたちこめ、水も食事もろくに取れない中、米軍の上陸に備えて灼熱の砂浜でトーチカを掘り続ける日々に、身重の妻を残して出征した若い兵士・西郷(二宮和也)は絶望を隠しきれずにいた。
6月、いつものように上官から体罰を受けている西郷の前に、新たな指揮官・栗林中将(渡辺謙)が現れる。体罰によって規律を保とうとする軍隊のあり方を良しとせず、無駄な体罰を禁じる栗林。アメリカ留学経験のある栗林は、日米の戦力を冷静に比較し、フラットな目線で戦況を分析する力を持った当時の日本軍では珍しい存在だった。着任早々自らの足で硫黄島を歩き回った栗林は、海岸線で米軍の上陸を阻止するという古参の将校たちの戦術をアッサリと否定。戦いの要となる摺鉢山から全島に地下トンネルを張り巡らせ、徹底抗戦するという奇策を打ち出す。陸軍への敵意を隠さない海軍の伊藤中尉(中村獅童)たちは栗林のやり方に正面から反発するが、栗林と同様アメリカを良く知る西中佐(伊原剛志)は彼に理解を示す。ロサンゼルス五輪馬術競技で金メダルを獲得し、「バロン西」の名で欧米の社交界で愛された西にとって、栗林とともに米軍と戦うことができる機会は大きな意味を持っていた。
日本本土への空襲をより活発化させることができる「不沈空母」である硫黄島を死守するため、元憲兵の清水(加瀬亮)ら若い兵士が続々と送りこまれる中、翌1945年2月、遂に米軍が硫黄島に上陸を開始した。開戦前夜、栗林は兵士たちを集め、家族を守るために1日でも長く生きのびるよう「命令」をくだす。その言葉に触れた西郷は、生きて家族の待つ家に帰るために戦うという決意を新たにするのだった。
西郷が配属された摺鉢山の戦いは過酷を極め、日本軍は必死の抵抗を続けていたが遂に上官から玉砕の命令が下った。次々と手りゅう弾で自決していく仲間たちを前に、成す術もなく立ちつくす西郷。彼は生き残った清水を説得し、島を縦断して栗林のいる本部を目指すことに。一方、玉砕を美徳とする伊藤中尉は栗林の命令を無視して、摺鉢山奪還のために単身での突撃を決意。地雷を身体にまきつけて、激しい戦闘下に飛び出して行くのだが…。
圧倒的な戦力の違いから米軍は5日で終わると予想していた戦いだったが、栗林の秘策が当たって思いのほか長期化。しかし、放った伝令は戻らず、遂には大本営からも見放され、栗林にも次第に焦りの色が見えてくる。そんな彼を支えていたのは、愛する家族と過ごした日々の記憶、そして届くはずもない手紙をしたためる時間の温かさだった。
島を縦断中の西郷と清水は、西中佐が率いる部隊と合流。そこで、彼らは一人の若い米軍の兵士を捕虜として捕らえる。負傷した彼を日本兵と同様に手当てするよう命じる西。その甲斐なく兵士は亡くなるが、彼の胸ポケットから1通の手紙が発見される。兵士を追悼するように、その手紙を読み上げる西。その言葉を受けて、敵兵も自分と同じひとりの若者であるという事実に心を動かされる清水。「生きる」。戦場に来る時には思いもしなかった希望を再び胸に抱いた彼は、西郷とともにある決断を下すことになる。
愛する家族を守るため、そして彼らに再び会うために、生き延びようと戦い続ける西郷。そして父親のような温かさと厳しさで最後まで兵士たちを導こうとする栗林。彼らの戦いの末に待つものとは…。


戦後66年。暑い夏が今年もやってきた。「硫黄島からの手紙」は、太平洋戦争中、アメリカ軍が最も苦戦した戦闘のひとつに挙げられる硫黄島戦を日米双方の視点から描いた「硫黄島2部作」の日本編。アメリカが誇る名匠クリント・イーストウッドが、日本軍の苛烈な戦いぶりを渡辺謙、二宮和也ら日本人キャスト&ほぼ全編日本語で描ききった全日本人必見の意欲作だ。
その“平凡な若者”の代表・西郷を圧倒的な存在感で演じているのが、イーストウッドが「類稀な才能」と絶賛する嵐の二宮和也。二宮曰く西郷は、「戦争肯定派が“いい人”だった時代に現代の僕らと同じ視点で『戦争反対』と言える存在」。人が死ぬのは怖いし、人を殺すのも怖い。自分が死んで家族や友人に会えなくなるのはもっと怖い。純粋で真っ直ぐな瞳の彼が見る戦場はどこまでも哀しい。そして、捕虜となった名もなき米軍兵士が大切に持っていた手紙が読まれたとき…。敵も味方も同じように愛する家族がいて、「生きて帰りたい」という同じ希望を抱きながら戦争という大きな渦に巻き込まれていく無常な真実が、強く深く胸に迫る。