八日目の蝉

八日目の蝉

今年の日本アカデミー賞を席巻した衝撃の感動作が待望の地上波初登場

鬼気迫る演技を見せた女優陣たちが母という存在の素晴らしさと哀しさを体現

八日目の蝉 今年の日本アカデミー賞で、作品賞、主演女優賞(井上真央)、助演女優賞(永作博美)、監督賞など最優秀賞最多10部門と新人俳優賞(ノミネートは13部門)をはじめ、賞レースを席巻した「八日目の蝉」。女であること、母であることの素晴らしさと哀しさを描き出す、人間ドラマだ。

原作は角田光代が、幼女誘拐、不倫、カルト教団など衝撃的な内容を扱いながら、女の業をジワジワとあぶり出した傑作小説。そんな原作を映画化するにあたり監督を務めたのは「フライ,ダディ,フライ」「孤高のメス」などの成島出。脚本は「サマーウォーズ」や今夏公開の「おおかみこどもの雨と雪」の奥寺佐渡子が手掛けた。

不倫相手の娘を誘拐して4年間育て上げた母・希和子。人工中絶の結果子どもが産めない身体になった彼女は、誘拐した娘の本物の母親になるために、精一杯の愛情を娘に捧げて生きていく。そして彼女に誘拐された結果、「母」を失ったまま成長してしまった娘・恵理菜。彼女は育ての母と生みの母に憎しみとも愛情とも言えない複雑な思いを抱きながら、自らも「母」になろうと決意することで2人の母を理解していく。子どもを産めばそれだけで誰もが「母」になれるのか、母性とはいったい何ものなのか。物語は母と子という普遍であり不変のテーマを、丁寧に掘り下げていく。そして原作では独立した前後編として描かれていた2人の女の物語を、時間軸を交差させながら描くことにより、恵理菜と希和子という相似形の「母子」の生き様を鮮やかに浮き彫りにしていくのだ。

八日目の蝉 子役時代から大ヒットシリーズ「花より男子」まで、男勝りな気の強い女の子の印象が強い井上真央が、複雑な家庭環境で育ち滅多に自分の本音を表情に出すことのない少女・恵理菜役で新境地を開拓。そして実生活では一児の母である永作博美は、母親になることに自分のすべてを賭ける希和子を熱演し、「キネマ旬報」主演女優賞も納得の存在感を見せている。また、ルポライターを名乗って恵理菜に近づき、彼女の心の傷に寄り添い癒していく千草を演じる小池栄子、乳飲み子を連れて希和子が駆け込む「エンジェルホーム」の代表者であるエンゼルさんを演じる余貴美子、希和子と親しくなる久美を演じる市川実和子と、彼女の母親・昌江を演じる風吹ジュン。出演しているすべての女優が鬼気迫る熱演を見せ、物語にリアリティを与えている。中でも突出してすばらしいのが、恵理菜の実母である恵津子を演じた森口瑤子。夫の不倫相手である希和子を口汚くののしり、自分の分身であるはずなのに思い通りに育たない娘を半狂乱になって叱りつける。森口のヒステリックな叫び声は、女のイヤな部分を凝縮させたような恵津子の悲しみをストレートに表現していて、胸の奥を掴んで離さない。

子育てをする喜びを味わわせてくれたことを感謝するという希和子の言葉も。娘を奪った希和子に対して「死ね!」と言い放つ恵津子の言葉も。母親に愛されたことがないから母親にはなれないと悩む恵理菜の言葉も。すべての女性にとっての、真実。女の強さと優しさと、哀しさと恐ろしさを封じ込めた作品を、女性はもちろん、男性にも心ゆくまで味わっていただきたい。

「女」はいかにして「母」になるのか…幸せを求めてもがき苦しむ2人の母子の旅路

八日目の蝉 1995年のある日。東京地裁では野々宮希和子(永作博美)の論告求刑が行われていた。彼女は不倫相手である丈博(田中哲司)と恵津子(森口瑤子)夫妻の娘・恵理菜を、生後6カ月で誘拐。その後4年間にわたって、恵理菜を薫と名付けて逃亡生活を送っていたのだ。

丈博の子どもを身ごもったが中絶し、それをきっかけに子どもが産めない身体になった希和子。自分のものになるかもしれなかった命をひと目でも見たいと丈博と恵津子の留守中に彼らの家に侵入した希和子は、恵理菜の笑顔を見た途端、衝動的に彼女を抱きあげて外に飛び出してしまう。友人宅に転がり込み、ミルクの作り方などを教えてもらう希和子。しかし当然のことながら恵理菜の誘拐はニュースで報道されることとなり、希和子は長かった髪の毛をバッサリと切り落とし、恵理菜を連れて電車に乗りこんだ…。

成長した恵理菜(井上真央)は、両親とは別々に暮らし、大学に通いながらアルバイトに精を出す日々。精神的に不安定な恵津子からヒステリックに罵倒され続け、本物の母親が誰であるか実感できないまま成長した彼女にとって、自分から家庭を奪い去った希和子は憎むべき存在だった。しかし、結局恵理菜自身も、妻子のある岸田(劇団ひとり)とズブズブの不倫関係に陥っていた。そんなある日、彼女のもとにルポライターを名乗る千草(小池栄子)が訪ねてくる。恵理菜の誘拐事件を取材したいという彼女に手渡された当時の新聞記事や裁判の公判記録などを読むうちに、恵理菜の脳裏に忘れかけていた希和子との生活がよみがえってくる。

八日目の蝉 恵理菜を「薫」と名付けて育てる決意をした希和子は、エンゼル(余貴美子)というリーダーのもとで様々な事情を抱える女性たちが共同生活を送っている「エンジェルホーム」に身を寄せることに。そこで夫の両親に息子を奪われた久美(市川実和子)たちと穏やかな日々を送っていたが、結局、カルト教団まがいの活動をしていたという理由で「エンジェルホーム」は解体。その直前に、危険が身に迫っていることを感じ取った希和子は薫を連れてホームを後にしていた。

一方、岸田との子どもを妊娠したことをきっかけに、これまで目をそらしていた自分の過去…希和子との日々と向き合おうと決心する恵理菜。実は単なる興味本位の記者ではなく「エンジェルホーム」で彼女と一緒に生活していたという千草とともに、彼女は「エンジェルホーム」の跡地を訪れ、その後希和子が暮らしていた小豆島へと向かう…。

小豆島で希和子が向かったのは、久美の実家。そうめん工場を営んでいる久美の母・昌江(風吹ジュン)は、行くあてのない希和子の事情を察し、また自分の孫と薫が同じ年齢だと知って、希和子を住み込みで働かせることに。閉ざされた環境だった「エンジェルホーム」では味わうことができなかった、ありふれた生活の中ですくすくと成長していく薫。小豆島の美しい風景に癒された希和子は、これまで見たことのなかった世界を薫に見せてあげようと決意する。しかし、恵理菜誘拐事件の捜査の手は、すぐそこまで迫っていた。

希和子が幼い自分とたどった軌跡を再びなぞることで、忘れかけていた希和子との幸せだった日々を思い出していく恵理菜。1日でも長く、薫と暮らしていけますように…という切ない祈りを捧げ続ける希和子。母親になりたいという純粋な願いだけを胸に抱き続けてきた2人の女たちが、長い旅路の末に探しだした幸せの形とは?

八日目の蝉

キャスト

<秋山恵理菜=薫>
井上真央
<野々宮希和子>
永作博美
<安藤千草>
小池栄子
<秋山恵津子>
森口瑤子
<秋山丈博>
田中哲司
<沢田久美(エステル)>
市川実和子
<沢田雄三>
平田満
<岸田孝史>
劇団ひとり
<エンゼル>
余貴美子
<タキ写真館・滝>
田中泯
<沢田昌江>
風吹ジュン

スタッフ

<原作>
角田光代(中公文庫)
<監督>
成島出
<脚本>
奥寺佐渡子
<音楽>
安川午朗
<撮影>
藤澤順一
<照明>
金沢正夫
<美術>
松本知恵
<録音>
藤本賢一
<編集>
三條知生