• ごあいさつ
主催者挨拶

このたび、2014年4月から森アーツセンターギャラリー(六本木)、7月から大阪市立美術館(天王寺)において、「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」を開催する運びとなりました。
本展は、2009年11月から2010年3月までパリ・オランジュリー美術館で開催された展覧会、“Les enfants modèles”(「モデルとなった子どもたち」と「模範的な子どもたち」のダブルミーニング)を日本向けに再構成したものです。パリのオルセー美術館とオランジュリー美術館、両館の支援のもと、フランス展の企画立案者でオランジュリー美術館の元館長、エマニュエル・ブレオン氏と、成城大学名誉教授、千足伸行氏の監修により、フランス国内に所蔵されている絵画を中心に、新たに作品を選定しなおしました。
テーマは、描かれた側=モデルとなった子どもの体験と、描いた側=子どもたちの親、または子どもたちと親しい関係にあった画家の想いです。画家に焦点を当て、その技術や特徴を鑑賞するという従来の展覧会の枠組みを超えて、子どもたちの目線を通じて作品に秘められたメッセージやエピソードを読み解くという、絵画の新しい鑑賞方法を提案する画期的な展覧会となります。
モネ、ルノワール、ルソー、マティス、ピカソをはじめとする様々な時代、流派の画家たち約50人による、およそ90点の作品が出展されます。「描く側=大人」たちは何を残そうとし、「描かれる側=子ども」たちは当時何を想ったのでしょうか。
肖像画の変遷と時代の変化を辿りながら、作品に秘められた両者の想いに迫る本展に、どうぞご期待下さい。

主催者

エマニュエル・ブレオン氏よりメッセージ

あなたも、子どものまなざしで絵を鑑賞してみませんか。それが本展覧会の望みです。ルイ=レオポルド・ボワイーからパブロ・ピカソに至るさまざまな画家の子どもたちは、きっと自宅で絵を鑑賞するコツを学べたに違いありません。というのも、彼らは自分をモデルとした作品が目の前で仕上がっていくのを間近に見られたからです。否応なしに、彼らは絵のモデルにさせられて、仕事の鬼でありながらも、親としての温かさも向けてくれた画家にかじられました(ここはフランス語の言葉遊び。「齧る(クロケ)」と「素描(クロッキー)」は同じ語源)。そんな「モデルとなった子どもたち」が今回の展覧会のテーマです。そこでは彼らが自分たちのモデル体験について、どう思っていたかが重要になります。
日本で開催される本展では、パリでの展覧会よりも構成に骨格を与えるために、時代別あるいは流派別に作品を整理しなおしました。19世紀の子どもたち、晴れ着を着たベル・エポックの子どもたち、印象派、ナビ派、さらにはフォーヴィスム、キュビスムの子どもたちの肖像画は今日では世界中の美術館で傑作として飾られています。20世紀末のジーンズやバスケット・シューズをはいた子どもたちも、彼らなりの話し方で、楽しかったり苦しかったりするモデル体験の思い出を私たちに語ってくれることでしょう。子どもたちは家族の肖像画の中におとなしく収まらないときには、親が選んだ「アクセサリー」的なものを携えて、絵に描かれました。それはピエロの衣装であったり、木馬であったり、クロケットの槌であったり、輪遊びの輪であったり、人形や、池に浮かべる船の模型であったりします。あるいはもっと気ままに、お気に入りの鉛の兵隊で遊んだり、お話に耳を傾けたり、周りの大人のように絵やデッサンを描く姿で彼らは描かれています。
マティス作の《ピエール・マティスの肖像》、ドニ作の《トランペットを吹くアコ》、ボワイー作の《私の小さな兵士たち》など、日本初公開の傑作を多数含む本展覧会を鑑賞された後には、皆様はきっと新鮮な気持ちになられることでしょう。
過去から現代まで、さまざまな運命を辿った子どもたちの肖像画は、詩人シャルル・ボードレールが語ったように、我々が失ってしまった子ども時代を取り戻してくれるものと期待しています。

エマニュエル・ブレオン氏