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子どもたちにとって、モデルとしてポーズを取った時間はどのようなものだったのでしょうか。
子どもが大人になってその体験を振り返ったとき、実は様々な想いがあったことがわかります。ある子にとっては、長時間ポーズを取るのは決して楽しいものではありませんでした。遊びに行きたくとも、じっとし続けなければならないし、いつもの優しい親の態度は一変、真剣なまなざしで我が子を凝視します。子どもは大人の仕事の世界に引きずり込まれるのです。
一方、ある子にとっては、日頃忙しい親とのコミュニケーションをとることのできる、とても楽しみな時間であったといいます。画家は子どもを大人しくさせようと、物語を語って聞かせたり、ペットを膝の上に置かせたり、ゲームをさせたり、本を読ませたり、様々な工夫を凝らしました。
子どもたちにとって彼らは、画家である前にあくまでも親であり、必ずしも世間で噂される有名な画家ではなかったはずです。彼らがどのような流派に属していたかなど、専門的なことも理解できなかったことでしょう。セザンヌの形態の探求は、キュビスム以降の美術に影響を与えるものであったものの、同時代の印象派とは異色な画風で、長年、世間の嘲笑の的でした。ピカソの子どもたちは、父親が自分の顔を何度も描き直し、そのたびに顔つきががらりと変わるのをきっと不思議に思ったことでしょう。子どもたちにとって、彼らの親は「何々派の巨匠」である前に、食卓でいつも顔を合わせる「大人」だったのです。モデルとなった子ども自身が親の作品の重要性に気付くのは、年を取ってからのこと。しかし、この無垢な子どもたちの視線こそが、私たちに新たな鑑賞の仕方を教えてくれるのです。
美術史のフレームを外して、素直にモデルである子どもの立場になって作品に向かい合ってみてはいかがでしょうか。