第5章:フォーヴィスムとキュビスム

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  • マティスとドランは、ヴラマンクとともに20世紀初頭の前衛運動のひとつであるフォーヴィスムのリーダーとして知られています。ただし今回の作品には初期の彼らに特有の原色系の色彩の爆発的なエネルギーはなく、いわば野獣派の後日談ともいうべき抑制された色彩が目立っています。一方、ブラックとともにキュビスムを創造したピカソは、1921年にロシア人バレリーナの妻オルガとの間に最初の子パウロが生まれると、早速彼を最も身近で、最も愛するモデルとして繰り返し描きました。そこには一人の親としてのピカソの愛情がにじんでいますが、今回出品のクロード、パロマはオルガではなく、愛人のフランソワーズ・ジローとの間の子です。ジローもまたピカソと知り合う前から画家として活躍し、今回彼女の作品も4点が出品されます。今回のピカソの作品は、モデルの子どもたちが生まれたのが1950年前後ということもあり、彼が70歳前後のものですが、これらは、技法的にも様式的にも、変幻自在のピカソ芸術の縮図といっても過言ではないでしょう。
    no.13 パブロ・ピカソ 《パロマ》
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  • ピカソは言うまでもなく20世紀最大の芸術家であるが、彼はまた子どもを描かせても20世紀と言わず、古今最大の画家であった。ピカソと子どもをテーマにした本が出版されたり、展覧会が開催されたのもピカソならではである。ピカソは生涯に2度結婚しているが、最初の妻オルガとの間に生まれたのがパウロで、他に愛人のマリー=テレーズ・ワルテルとの間にマヤを、フランソワーズ・ジローとの間クロードとパロマをもうけている。ピカソはまだ独身だった青の時代、バラ色の時代にも社会の底辺に生きる貧しい子どもをしばしば描いているが、1921年にパウロが生まれてからは、子どもの絵と言えばもっぱら我が子であった。この絵のモデルのパロマは1949年生まれ。この年、パリで国際平和会議が開かれ、ピカソはそのポスター・デザインを依頼され、平和のシンボルとして鳩をモチーフに使った。パロマ(スペイン語で鳩)と名付けたのもその関係であろうが、この絵のパロマは4歳前後。一見荒っぽいデッサンを繰り返した、いわゆる「子どもでも描けそうな」絵であるが、正面を向いて我々を見据えるかのようなパロマには大人顔負けのパワー、存在感がある。