ディレクター日記
 パリの郊外、車で1時間足らずのところに、藤田嗣治の住居兼アトリエがあります。彼が亡くなったのは今から30年以上も前のことですが、それからも彼の奥さんがその場所に住み続け、彼が生前過ごしたそのままが、今でも保存されています。
 外から見ると2階建てですが、傾斜地を利用して、3階建てになっています。1階が台所とダイニング。2階が表玄関とリビング、寝室。そして、3階がアトリエです。中でも圧巻なのがアトリエです。正面の壁一面に描かれた宗教画は、彼が手がけたランスという街の教会の壁画の習作です。そして、所狭しと置かれた作品、画材・・・。まるで今にも彼がこのアトリエに戻ってきて仕事をしそうなほどです。
 よく見ると、アトリエの中には日本のものがたくさん残されています。桃屋の瓶、風呂敷、日本画の筆、刷毛、味付け海苔の缶・・でも、それらは何の違和感もなくそこに存在しています。でもそれは、日本のものだから使うと言うよりも、優れたものが、たまたま日本のものだったという感じに見えるのです。細かい描写には日本画の筆の方が合っていたりとか・・。フランスに帰化し、フランス人として生きた彼ですが、実は彼はフランスでも日本でもない、もっとインターナショナルな存在だったのではないかと思いました。