第1章 ウィーンからヴェルサイユへ、皇女から王太子妃へ

フランツ・クサーヴァー・ヴァーゲンシェーン
《チェンバロを弾くオーストリア皇女マリー・アントワネット》

マリー・アントワネットは幼いころからシェーンブルン宮殿で行き届いた音楽教育を受けた。最初の先生であったクリストフ・ヴィルバルト・グルック(1714-1787)は当時のもっとも優れた音楽家のひとりである。
うら若きオーストリア皇女がチェンバロ〔フランス語でクラヴサン〕の前に座っている場所は、赤い幕と風景画が嵌(は)め込まれた板張りの壁からわかるように宮殿の一室である。青い絹地に毛皮の縁取りのあるドレスを着た優雅な皇女は、髪を高く結い上げ、大きく巻いた毛先は背中に流している。この髪型からこの絵はマリー・アントワネットがフランスに向けて出発する直前に制作されたと判断することができる。

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