岩の上に座る浴女
 オーギュスト・ルノワール
   (Auguste Renoir,1841〜1919)
 ※ 油彩・カンヴァス 1882年 54×39cm
 本作を描いた前年からその年にかけてルノワールはイタリア旅行に出かけ、ラファエロのフレスコ画やポンペイの壁画に感嘆した。その頃、画家自身は変化の多い屋外の光の描写に行きづまりを感じていたが、旅行が解決の一つの糸口を与えてくれた。帰国後しばらくして次第に印象主義から離れ、古典に回帰する。主題の上では晩年にかけて彼の主要なテーマとなる裸婦像が多くなり始め、その場面設定もそれまでの現実の戸外から神話的あるいは牧歌的な自然へと移行するのである。本作はその最初期の制作である。海浜の設定だが、光は明らかにアトリエ制作を示している。イタリアの古典作品から示唆を得て、その全体の調和を考えた描写が意図された。女性の姿勢もいささか古典的で、作為的だが、後に息子のジャンに語ったような「若い娘の、薔薇色で、血が健康にまわっているのが目に見えるような肌」への讃美がこの小さな作品にもうかがえる。
(解説・宮城県美術館 学芸員 西村勇晴)