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驚き スキー 逆V字飛び
第969回 2009年1月25日


 いよいよ、バンクーバーオリンピックまであと1年!中でも、日本人に数々の感動を与えてきた競技といえばスキージャンプ!今回はその秘密を徹底解明します。

 鳥人たちのスキージャンプを生で見たいと、北海道のジャンプ台へ向かった矢野さんを迎えてくれたのは、なんと長野五輪金メダリストの船木和喜選手。ジャンプ台に上った矢野さんは、その高さと斜面の急さに愕然。試しに斜面からタイヤを転がしてみたところ、猛スピードで転がっていきましたが、そのままジャンプ台の下に落下!飛距離はわずか5mでした。一方、選手たちは80km以上のスピードで滑降し、90m以上も飛んでいました。ということは、選手は驚異的なジャンプ力を持っているのでしょうか?そこで、バレーボール・100m走・柔道・スキージャンプの4種目の大学生選手に集まってもらい、ジャンプ力対決!すると、他の3選手は全員60cm以上跳んだのに、ジャンプ選手はなんと惨敗。55cmしか跳べなかったんです。踏み切る瞬間、連続写真選手によると、ジャンプ力はあまり重要ではないと言うのです。そこで矢野さんはジャンプの秘密を探るため、高さ10mの子供用ミニヒルでジャンプに初挑戦。子供用とはいえ、かなりの急斜面を思い切ってジャンプ!その記録はわずか1.5m。おまけに着地の後には大転倒!実は、選手達との違いは踏切りにあったのです。選手の飛ぶ瞬間をハイスピードカメラで撮影してみると、選手はジャンプ台の端が近付くと徐々に曲げていた膝を伸ばし、上体を起こしながら空中に飛び出していました。選手達は膝を伸ばす反動で、飛び出しの角度を上向きに変えていたのです。踏切りを行わなければ、飛び出してもすぐに落下するだけになってしまうのです。

 ところで、飛んでいるジャンパーを見てみると、みんな空中でモゾモゾと動いています。実は、何も無い不安定な空中を体一つだけで飛んでいくジャンパーは、横風や突風を受けると体が大きく流されてしまうため、手や肩を微妙に動かすことでバランスをとっていたのです。では一体どれくらいバランス感覚が良いのでしょうか?そこで再び4種目の大学生アスリート達に『目隠し片足立ち対決』をしてもらいました。すると…次々に脱落者が出る中、ジャンプ選手は余裕で4分越え!他の競技と比べ3倍近くも長い時間立っていられたのです。実はジャンプ選手が地上で最も長い時間をかけて行う練習は、踏み切ってから空中でバランスを取る一連の動作のイメージをつかむ練習。ジャンプ競技にはバランス感覚も大変重要だったのです。

所さんのポイント
ポイント1
スキージャンプでは、ジャンプ台の端で飛び出しの角度を上向きに変える踏切りと、不安定な空中でのバランス感覚が重要なのだ!

 さて、栄光を極めた長野五輪から11年。なぜ、最近の日本ジャンプ陣は勝てなくなったのでしょうか?船木選手に聞くと、スーツの規定が変わったのが最大の要因だといいます。そこで、実験!全身タイツ、ニッカボッカをはいたとび職の作業着、羽のような袖の紋付袴を人形に着せて、巨大風洞実験室で風の受け方がどう違うのか観察してみます。すると、全身タイツは前面から来る風を受け少し浮き上がり、その差は20cm。紋付袴は30cm、作業着では50cmという結果に。なぜ、作業着はこんなにも浮かび上がることができたのでしょう?専門家の方に聞いてみると、全身タイツはほぼ体だけでしか空気を受け止めてないのに対し、紋付袴は空気を取り込みますが構造上、空気が抜けてしまいます。一方、作業着は手や腰が締まっているため空気を内部に取り込みパラシュートのように揚力を得ていたのです。実は、ジャンプスーツも同じ原理なのです。そこで現行のスーツと長野五輪当時のスーツを比較してみると、長野のスーツは全体に一回り大きく作られていました。しかし、飛び過ぎによる危険回避という目的で、当時は体との隙間が10cmまで許可されていましたが現在は最大5cmに。襟周りの隙間も現在はより狭く変更されているのです。長野五輪で日本チームが着ていたスーツは風を取り込んで浮くように計算しつくされた世界最高峰のスーツだったのです。

所さんのポイント
ポイント2
最近日本ジャンプ陣が勝てなくなった要因の一つは、スーツにあった。風を取り込む量が少なくなるように規定が変更されてしまったのだ。

 さて、今やV字ジャンプが飛型の基本となっていますが、なぜV字ジャンプは飛距離が伸びるのでしょうか?そこで、その効果を科学的に検証してみます。身長や板の長さを再現した人形を小型風洞に設置。後ろに300本の糸をつけた網を置き、風の受け方の違いを糸の動きで観察できるようにしました。選手は前から吹く風を受けて体を浮かせる揚力を得ます。その反作用で選手の後ろには下向きの風の流れが起きるので、下向きの糸が多いほど揚力が大きいというわけです。逆V字の人形(理論上V時に勝る逆V字)まず板が平行の場合は、下を向いた糸は9本。次にV字だと、糸の数が12本に増加しました。もっといい飛び方はないかと探していると、30年前の新聞に当時の選手が「ハ」の字型の逆V字ジャンプで活躍していた記事を発見!早速、逆V字の風の受け方を見てみると、下向きの糸は20本!なんとV字以上の揚力を得ていたのです。日本復活のカギはこの逆V字にあるかもしれません。しかし残念ながら、現在のルールでは逆V字は飛型点で大きく減点されてしまうので、実現は難しいようです。バンクーバー五輪は、日の丸飛行隊の大いなる飛躍に期待しましょう。



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